短編 | ナノ
Tell Me Phone [1/2]














オレと別れたいって?よく聞こえねぇな。

ダンスホールは今日も絶頂なんだ、わかるだろ?



今度は電話越しに逆ギレかよ。

こっちは忙しいんだ、両手は既に酒と女で塞がってる。






繋がらねぇって言ってんだろ?悪いが何も聞こえねぇな。



おい、その話はもうやめろ。

考えたくねぇんだよ、お前からの別れ話なんてうんざりだ。
























……だがオレは、今日もその声が聞きたくて。また通話ボタンを押しちまうんだ。
























Tell Me Phone












---------------






プルルル、プルルル……






「サソリぃ……そんなとこ居ないで、こっち来て踊りましょうよ。」






プルルル、プルルル……






ほろ酔い気分の女が胸の谷間をちらつかせ、ソファに座るオレの腕に擦り寄ってくる。






―――鳴り止まないコール音。点滅するライト。

うるさいDJと光輝くネオンの中にありながら、負けじとその存在を主張する。






「ねぇ、サソリってばぁ。」

「うるせぇ。今日はもう上がる。」

「…んまぁ、いっつも肝心なとこで逃げちゃって……それ、彼女さんからなんでしょ?」






オレが立ち上がるので、女がソファに崩れるようによろめくが。

すぐオレの手の中にあるソレを、ネイルのごてごてした指で差してくる。






(ほんと女って人種は、無駄にこういうとこだけ鋭いな……。)






変に感心していれば、背後からするり。

女の腕がオレの胸の前に通され、艶かしく吐息をかける。






「忘れちゃいなさいな……そんな女のことなんて。」

「…………。」

「サソリには、もっと性に合った子がいるでしょ?例えば、わたしとか。」






だがその腕を振りほどくと、オレは裏手に通じる扉に手をかける。






「もう、つれないのね……あなた、何のためにこんなとこ通ってるのよ。」

「……何だって、いいだろ。」

「そうやって毎日のように顔は出すくせに。あなたが踊ってるとこなんて、見たことない。」

「…………。」

「一回くらい、溺れてみたら?案外楽になるものよ。それに……」






横目にチラリとだけ見やれば、女はまばゆいライトを受けながら視線をよこす。



そのグロスで光る口許に、ごてごての爪先を乗せて笑った。






「遊びは徹底的にやらないと、後で後悔するわよ。」






―――バタリ、

そんな胸くそ悪いセリフを余韻にしながら、オレは薄暗い廊下を突き進んでいった。
























---------------






―「遊びは徹底的にやらないと、後で後悔するわよ。」―






馬鹿言え。後悔なんざ、とっくにしてる。






もちろん“遊び”にじゃない。

後悔してもし足りないくらい、オレはnameに溺れている。






プルルル、プルルル……






―――nameを掴みきれない、遊びもやりきれない。

どちらも不完全燃焼のまま、オレは今日も一人、その通話ボタンを押した。






『……もしもし、サソリ?……やっと繋がった…またクラブにいるんでしょ。』

「…………。」

『煙草吸って、お酒飲んで……そのくっさい口臭、こっちにまで臭ってきそうですごく不快。』






外の冷気を肌で感じながら、散らかる狭い路地裏の壁に寄りかかり。

無味無臭の白い息を吐き出して、オレはスマホを握る手に力がこもる。






『そうやって毎日、綺麗な女の人に囲まれて、相手して……あんたの遊び癖と女癖の悪さには、ほんと呆れる。』

「…………。」

『いつまでこんなこと続けるつもり?かれこれもう半年もアタシ……あんたの顔、見れてないんだからね。』






見なくてもわかる、次第に下がっていく声のトーンを聞けば。

お前が次に、何を言い出すかってことくらい。
























『いい加減アタシたち……別れようよ…。』






―――…言っちまおうか。






―「あなたの踊ってるとこなんて、見たことない。」―






女にも遊びにも手を出した試しは、一度だってありゃしないんだって。



だがこんなにも引き裂かれた状態では、何を言ったところで火に油だろう。






「テメーに何を言われようと、オレは朝まで踊るぞ。」

『っ……、』






だからそんなお前にオレは、お前が望まないであろう答えを返しちまう。

そうすれば、気の強いお前は必ず突っかかってくるのがお決まりだ。






「まぁそうだな……あと数日そうやって待ちぼうけてみろよ。何かいいことあるかもしれねぇだろ?」

『……っそれ、前にも聞いた…』

「そうか、じゃあずっと待ってろ。テメー真面目だからな。オレがいるうちは、どうせ不倫なんざ出来やしねぇんだろ?」

『っ…あんた、本気で…、言ってんの……?』






……だがこの日はオレの期待した、いつも怒鳴り散らしてくる声はなく。
























―――通話口越しのその声は、泣いていた。



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