3/2.
「終わったぞname。」
『ふぇ………え…?はっ!?』
「少し大きいか?」
半分放心しかけていた瞼を上げれば、いつの間にか離れたイタチが何の気なしに問いかけてくる。
……その視線が、まだ体に残る温もりと相まって。
アタシはもう顔に両手を当て、全力で視線を泳がせた。
『え、う〜っ…!だ、大丈夫!いってきます!!』
「あぁ、よろしく頼む。」
「鍋とかひっくり返すなよ姉さん。」
『うわっ!!さ、サスケくん居たの!?』
「ずっと居ただろって……いいから早くしろよ、いつまで母さん一人にやらせる気だよ。」
『はいはいはい〜〜!!』
ていうか今の一部始終見られてたとか恥ずかしすぎるんですけど!!うわ〜穴があったら入りたい〜〜!!
そんなこんなでようやく二人の前から退却し、そそくさとお台所に足を運ぶ………ん…?
『あ!!いっけない、まだ荷物とか廊下に置きっぱなしだった!!』
お土産とか一番に渡さなきゃいけないのに、うあ〜浮かれて何やってんだよアタシのバカバカバカ!
それでもやむなく方向転換し、アホみたいに今来た廊下を戻っていく。
何よりさっきの後とか気まずいよ、アタシどんな顔してイタチに会えば……ていうかサスケくんにバレたかな?アタシがイタチ好きってバレた?……いやいやバレっこないって、大丈夫!
「兄さん、あんたいい加減にしろよ。」
んん?何だ何だ、何かあったかなサスケくん?
廊下の角を曲がる手前で、アタシはひっそりと顔だけを覗かせ様子を窺う。
二人はまだ、さきほどの位置から微動だにせず向き合っていた。
「いつもそんな涼しい顔して、姉さんの相手して。」
(え?あ、アタシ……?)
「連れてきて正解だっただろう?サスケも最近の受験勉強で煮詰まってただろうし。」
「…………。」
「お前が一番元気なのは、nameと顔を突き合わせてるときだからな。だがあんまりちょっかいを出しすぎるのもどうかと思うぞ。サスケだってnameに嫌われたら元も子もないだろうし、」
「……はぁ?オレが姉さんにちょっかいしてるって…?」
う〜…何だかよくわからないけど、ただ今二人はお取り込み中みたい。
けどこれ以上ミコト母さんを待たせるのもアレだし……よし、ここはそろ〜りと邪魔しないように……、
「はぐらかすなよ!!それもこれも誰のせいだと思ってんだよッ!!」
『うへぇ!??』
思わず間抜けな声が飛び出し、アタシは慌てて口をふさぐ。
幸い二人には届かなかったようだけど……えぇ何々!?まさかの兄弟喧嘩!?こんなとこで、あの二人が……!?
「オレがちょっかいしてんのは“姉さんに”じゃねぇよ!!」
『へ?は……、』
「あんだけオレが吹っ掛けてりゃ、あんただって姉さん相手に躍起になるだろうと思って……!!」
「サスケ、」
「もっと嫉妬すりゃあいいだろ!??何で姉さんのこと気にかけるだけで、肝心なこと気づこうとしないんだよあんたは!!?」
「怒鳴るなサスケ。nameまで聞こえる。」
どうやらアタシのことで言い争っているようだが、ここでアタシがとれる行動は二つ。
@静かにこの場を立ち去る。
A『アタシのために喧嘩しないでぇー!!』
……いや、さすがにAは無い。だけど事の結末が気になるのでもうちょっとだけ立ち聞きしてみる。
と。不意にサスケくんが覇気をなくし、脱力したのか顔をあげた。
「…っ……だって姉さんは、あんたのこと……
「忘れ物か?name。」
『うひゃあ!??』
何とあっさりイタチにバレた。
いやでもイタチこっち見てないよね?何で気づいたんだろう、不思議だ……。
「……いたのかよ姉さん。」
『え?あぁうん、まぁね。あ、あんまり喧嘩は良くないよ二人とも。兄弟仲良く、ね…?』
「あ"あ?」
『うはぁゴメンナサィイ!』
「サスケ、nameに当たるな。」
いやぁサスケくん、何て怖い目をするようになったんだ!チビりそうだったよこの歳で!
もはや荷物もお土産もいっしょくたにして抱え込むと、アタシは小走りで本日三度目の廊下を駆け抜ける。
―――と、そのとき。背後でサスケくんが声に出した。
「欲しいものは欲しがらないと、何も得られないだろ。そんなんじゃ。」
『っ……!』
思わず立ち止まりそうになったのも、ほんの一時(いっとき)。
アタシはすぐに歩を速めると、二人の見えない奥の方へと消えた。
(欲しいものは欲しがらないと、か……。)
おそらくイタチに向けて言ったんだと思う……けど。
何故かその言葉が、アタシの中に強く残った。
『悪いけどサスケくん。世の中にはね、根性論じゃ解決できないことがたくさんあるんだよ……。』
イタチはアタシの、監視役。
アタシがそんな彼の立ち位置を、どうこうできるわけもない。
―――アタシが養女でしかいられないことも、変わりようのない事実。
『いくらアタシが欲しがったって……運命っていうのは、そう簡単には変えられないんだよ。サスケくん。』
だけどアタシは、まだ気づいていなかった。
このとき彼の言ったことが、確実にイタチを後押ししていたことに。
前触れセンセーション「姉さん、はいアーン。」
『アーンじゃないって!そそそんな恥ずかしいこと出来るわけないでしょ!?ひとまずお箸おろそうか!?』
「つべこべ言わずに、はいアーン、」
『そう言うわりには心なしか棒読みだし!ふざけないでよ食卓でこんなこと……!』
「早く口開けて、じゃないともっと高スペックなこと要求するから。」
『何かサスケくん不機嫌じゃない!?イタチも見てないで助けて……って近い近いサスケくん!!』
「よかったなサスケ。nameも喜んでる。」
『戸惑ってるんだってばぁ!!これって新手の嫌がらせ!?兄弟コンボの嫌がらせなのコレぇ!?ミコト母さん助けてぇええ!!』
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