新イタチ長編 | ナノ
25/3.














ここにはどうやら、家政婦などは居ないらしい。

なんでも伯父に言わせれば、他人に家中を闊歩されるのは気に入らないんだとか。






それを差し引いても、ここに来てからのアタシの課題は山積みだった。






「お宅のnameさんも、将来はうちはの名に恥じぬよう英才教育を施します故、このうちは御用達の家庭教師めにお任せください!」






この日も玄関先で、伯父を相手にするその頭でっかちに、アタシは早くもブルブル震えていたのだが。






「そんなものは必要ない。」

「……え、はい?今なんと…?」

「nameが並みの英才教育などで収まるものか。今後二度とそのような戯れ言を抜かすな、帰れ。」






そうしてバタリ。

早々に追い出されてしまったその光景を陰からボーッと見つめていれば、振り向いた伯父と即座に目が合う。






『!!う、あ、』

「そんなところで立ち聞きとは、やらしいなname。」

『うぇ、あ、その…』

「やはりチンケな英才教育を施すより、お前には“こいつ”が性に合っているようだな。」

『!!で、でも伯父さん……あた、アタシそんな期待されても、』

「お前にはこれだ。」

『っ!!…………え、はい……?』






アタシがその差し向けられた紙に怯えながら、恐る恐る目を開ける。

……と、そこには何とも拍子抜けする文字が。






『……し、新体操…??』

「週に二回ある。学校が終わってからの二時間、近場にあるクラブに通え。」

『わ、わかりました……。』

「フフ…本当にお前は、俺の言うことには何でも従って……やはり素直でいい子だな、nameは。」






そうしてほくそ笑んだ顔を近づけ、ちゅっと額にキスを落とす伯父。

アタシがこそばゆくてその箇所をゴシゴシ擦れば、何故かその手にガシッと掴まれ、再び重ねるようにキスをおみまいされてしまった。






『……それにしても伯父さん、何で英才教育より新体操をとったの…?』






当然の疑問だった。

イタチやうちはのエリートたちが必ず通る道を、いくら伯父さんの特権ありきとはいいながらも、それの代わりが新体操って……。






伯父さんはアタシをオリンピックにでも出すつもりなんだろうか、それはそれで非常に困る。



アタシがそんな逸物の不安を打ち明ければ、途端に大笑いされてしまった。






「ふははは…!nameもついに冗談を言うようになったか、ははっ……」

『そ、そんな笑わないでよ伯父さん…!』

「はは、すまんすまん。まぁ理由を上げるとすれば、単にアレだ。」






すると突然、伯父がアタシを背後の壁まで誘導する。

アタシはされるがままでいれば、捻るように両手首を縛り上げられ……屈んだ伯父の顔が眼前に迫った。






「将来いろんな体位が出来たほうが、後々楽しめるだろう……?」

『へ……?』






……体、位…?体が柔らかいほうが、いろいろ不便しないってことかな……。

アタシが首を傾げながらも、自己流な解釈をして頷けば。






アタシの頭をクシャリと掻き乱した伯父は、心底おかしそうにして、この日も自室のドアの向こうに消えていった。
























---------------






体を動かすのは、正直な話得意ではない。



それでも続けてみれば、やらない人よりはそれなりに出来るようになるわけで。






『見てみて伯父さん!アタシ今日ね、こんなこと出来るようになったの!』






後日アタシがそう言って、帰宅したばかりの伯父に駆け寄った。



そうしてステッキを片手でクルクル回しながら、ヒョイッ。

高い天井に付くくらい真上に上げ、そのままキャッチしてみせる。






―――出来た……!伯父さんの前で、上手に出来た…っ!






『ほ、ほら伯父さん!出来たよアタ―――』






ぎゅむっ、

しかしアタシの顔は片手一つで抑え込まれ、その指圧により両頬に大きなくぼみができる。






ぐいっ、

『んむっ…!』






そのまま伯父の顔の前まで強引に引き寄せられれば。



……三日ぶりに見る伯父の目の下には、立派な隈ができていた。






「……三日三晩徹夜明けの伯父に対して、何か言うことがあるだろう。」

『お、お疲れ様です……』

「違う。オレはそんな部下からのようなセリフを聞きたいんじゃない。」

『え……えっと、』

「わからんのか。帰宅した同居人に対して、真っ先に言うべきことがあるはずだが……?」

『……!お、おかえりなさい伯父さん…。』

「…………あぁ。ただいまname。」






ふっと肩の力を抜き、にこりと笑みを見せた伯父はようやくアタシを解放した。

若干ひりひりする頬を手のひらで擦りながらも、アタシは再び瞳を輝かせる。






『あ……そうだ、ねぇ伯父さん今の見てくれた!?ほら今のクルクル、ヒョイってやつ……!す、スゴイでしょ!?せっ先生にもすごく褒められて、』

「あぁそうだな。それよりname。」






だがしかし、目の前ではしゃぐアタシには一向に構わず。

伯父は伯父でひとまず手荷物を下ろすと、いつかのようにツカツカと歩み寄り、アタシの正面に立った。






「腹を出せ。」

『へ……、』

「いちいち動揺するな。腹を見せろと言ったんだ。」

『お、お腹?』

「そうだ、早くしろ。」






てっきり褒められることを期待していたアタシは、伯父の返しに半ば落ち込む。

それの代償がお腹を見せることなんて、何だかヘンテコだったけど、言われた通りにペラリとめくった。






―――すぅ…、

『ひゃ……!』






すると伯父のごつごつした指が、アタシの脇腹を下から上へと撫で上げる。

ゾクゾクッと鳥肌が立ち、思わず背筋が良くなった。






「フフ、なかなか良い反応をするなname……だがこっちは、あと一息といったところか。」

『へ……な、何が…』

「くびれだ。」

『くび、れ…?』

「あぁ。くびれは男にはないからな。」

『そ、そうなの……?』

「そうだ。」






アタシが何度も疑問符で返せば、伯父の手が執拗に“くびれ”と言われた辺りを撫で回す。



その手から逃げるように体をよじれば、伯父は尚更楽しそうに目を細めた。






「くびれはな……女である何よりの証だ。」

『へ……は…、』

「あとはその骨盤が強調されれば理想だな。あわよくば胸も欲しいが、まぁこれに比べたら二の次か。」






そうして仕事で疲れたのか、例のごとく自室にこもってしまう伯父の後ろ姿。






(……結局褒められなかったな、ちょっとガッカリ……。)






でも、今日まで過ごして何となく分かった。

伯父はアタシに興味があったりなかったりの波が激しいこと。






それでもいつか、もっとすごい技を身に付けて伯父をビックリさせようと張り切るアタシは、このときが一番の輝きだったのかも知れない。


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