1.
「Q.男女二人のプチ旅行に、もしあなたが誘われたら行く?行ってくれるよね?ねぇ?」
『A.さようなら。』
「ノォオオオ即答なんてイヤぁあああ!!」
何故かクイズ形式で拳をマイク代わりに突き出す、この恥ずかしい生き物は残念ながらアタシの友人だ。
本名篠原、だから愛称はシノ。
通り名は、まぁ……お馬鹿さんってのが妥当だろう。
「ねぇ聞こえてる!!心の声聞こえちゃってるよ!?ていうか誰に言ってるのそれぇ!?」
『誰だっていいっしょ。つーかもっと直球で聞け。で、あんたはアタシにどうしてほしいわけ?』
「オネガイシマス!あたしたちの旅行についてきてくださいname様!!」
『やーよ。どうしてアンタらカップルに引っ付いて……ってオイちょっと落ち着け、服引っ張んな、』
「そんなぁ!!あたし奇数だからってnameのことほったらかしになんかしないよ!?席に座るのも二列のときも、あたしnameの隣で絶対に手ぇ離さないからね!?」
『あんたはアタシの疫病神か。とりあえず服離せ、破けんでしょうが、』
「だってだってだってぇ!!」
『いーから人の話を聞け。』
いくら言ってもちっとも聞かない友人に、見かねてアタシがバチンと叩く。
まるで目覚まし時計を止めるかのごとく頭を叩かれた友人が、ようやく我に帰れば溜め息が出た。
『ハァ……あんねぇ、アンタよぉく考えてみ。男一人に女二人、そんなの彼氏だって嫌がるに決まってんでしょ?』
「う、うちはくんはそんな心の狭い人じゃないもん!あたしたちみたいな若輩者なんかより、ずうっとずぅーっと大人なんだから!」
『まぁアンタよりかは大人さね、きっと。ってあぁ、そういやアンタの彼氏って結構年上なんだっけ。』
以前に聞かされたのを思い起こしてみれば、確か大学のサークルの飲みで出会ったとか何とか。
他の大学から来てるうちの一人だったから、同い年かと思って話していたら、実際はOBで歳は25。
会ってるうちに向こうから告白され、今まさにようやく一ヶ月が経過しようというときだった。
「あたし絶対バカ丸出しだったよね!?仕事帰りなだけなのに“うちはくんスーツ似合うね、もう就活してるの?”とか普通に聞いちゃったよ!は、恥ずかし……!」
『んで、その会話でようやく年上なことに気づいたと。ほんと肝心なとこ鈍いんだからアンタは。』
「だってだってだってぇ!なぶってぇ!」
『……まぁでも、そこがアンタの付き合いがいのあるとこだし。』
「ほんと!?いやー照れちゃうなぁ、ねぇお願い!この通り!もー頼れるのはnameしかいないの!あたしにはnameだけ!お願いお願いお願ぁああい!」
『はいはい静まれっての。分ぁりましたよ、行きゃあいいんっしょ行きゃあ。そんでも、アンタらの間には極力割って入んないかんね。』
「ありがとう〜!!nameってばテライケメン!やっぱ持つべきものは親友だよ〜!夜は絶対一緒に寝ようね!泊まるの旅館みたいだからオバケでるかも、キャ〜!!」
『……あんた今の話聞いてたん?』
まったく、一喜一憂にかまけてコレである。
それでも何だかんだで放っておけないので、アタシはついつい承諾してしまったのだ。
後にこのときの自分を、アタシはひどく後悔することになるとも知らずに……。
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『大体にしてアンタ、せっかくのチャンスなのに何で二人っきりで行こうとか思わないわけ?』
「だってうちはくんって超カッコいいんだよ!?あんな綺麗な人がいざ彼氏となると……あ、あたし意識しすぎて、何話していいのかさっぱり分かんなくなっちゃって、あわわわ……!」
『何だ、そーいうこと。はぁ……アンタも根性なしなんだから。次また旅行いくとかなったら、今度は一人で頑張んなさいよ?』
「が、頑張りたいです……。」
『声が小さい〜!!つーか弱音吐くな!!頑張んのよほら!!』
「が、がんばりまふぇ……!あ!き、来たよほら!おーいうちはく〜ん!こっちこっちぃ!」
アタシが両頬つねって伸ばした箇所を、すりすり擦りながらも迎えの車に手を振るシノ。
まったく、ウサギみたいに跳び跳ねちゃって……意外とタフネスなんだからこの子は。
そうしてクルリと旋回して、アタシたちの前に停車した車。
その扉が開けば、スラッとした足からまず目に入り、次第に胴体、首、顔……。
目の前まで来る頃には、アタシはもうポカーンとしていた。
「うちはイタチだ。篠原から話は聞いてる。泊まりがけの二日間、どうかよろしくな。」
簡素な自己紹介をして現れたのは、目を疑うほどの好青年。
ほどよく伸ばした黒髪を緩く結い上げたさまは、一瞬大和撫子すら連想させた。
『……うちはさんって物好きなんですね。』
「っておーい!ちょちょちょっと、nameってば初対面でいきなり何言って、」
『だってどう考えたってアンタには高嶺の花だもん。どうやったらこんな綺麗な人オトせるわけ?』
「グサァ!ストレートすぎぃ!た、確かにぺーぺーなあたしには不釣り合いかもしれないけど……!」
うん、ほんと不釣り合いだわ。謙遜してるとこ悪いけど。
と、そんな会話にクスリと笑ったうちはさん。
「はは……けど、物好きならお互い様だろう?」
『……え……?』
「あなたも、そういう篠原のことをちゃんと理解した上で付き合ってる。二人は本当に、いい親友なんだな。」
そんなことをつらづらと並べられ、アタシは余計に呆けてしまう。
ほんと、変というか、不思議な人……一瞬あまりに不釣り合いすぎて、もしかしてシノのこと騙そうとしてる悪漢なんじゃと勘ぐってたけど。
まぁでもまだ初対面で皮被ってるような感じするし、変なこと企んでないか警戒しないと……ってアタシはシノの保護者かってぇの。
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