デイダラ長編 | ナノ
39.














暗闇の中で、一人の女の子が泣いていた。



近づくとまだ小さい頃だったアタシが、ずっと目頭をこすって泣いている。






『……ねぇ、どうしてそんなに泣いてるの……?』






大きくなった今のアタシが腰をかがめて聞いても、その子は一向に顔を上げない。

するとアタシではない別の何かにハッと顔を上げると、その手を真っ直ぐ伸ばしてくる。



アタシはその手を掴んであげようと手を出した。






にゅっ、

『っ!??』






すると突然自分の体から子供の手が生えてきて、だけど目の前の小さなアタシは迷うことなくその手を取る。

そうしてそのまま幽霊みたいに透けたアタシを通過して、タタタと走り去ってしまった。






慌てて振り返って見たその先では、突然現れた男の子がしっかり小さなアタシを導いている。

その懸命に走る姿と揺れる金髪が、アタシの目を釘付けて離さなかった。






(……あの子、誰だっけ……あの子のこと、アタシすっごくよく知ってる気がする……)






そうやって思考の奥から絞り出そうとしていると、突然ぐいっと腕を引かれた。

つられて立ち上がりそのまま走らされるアタシは、その人の横顔をしっかりと捉えていた。






『……ねぇきみ…!さっきの男の子でしょ!?きみは誰なの!?』

「…………。」

『アタシあなたのこと、すっごくよく知ってるはずなの、なのに思い出せないの……!!』






アタシが聞いても、その人は答えない。

ただアタシを横目にチラリとだけ見ると、すぐに視線を戻してそれでも走り続けていく。






そうやってアタシの手をしっかりと掴んで、どんどん先へと導いてくれる人は。

忘れちゃいけない人、アタシをすごく愛してくれた人。



アタシはもう、涙が溢れて止まらなかった。






『すっごく大切な人なの、アタシの命よりずっとずっと大切な人……それがあなたなんでしょ……!?』






どうして今まで忘れていたんだろう。

その名前を知ってた頃のアタシは、これまで名前はしっかり覚えているくせ、こんなに胸あふれる感情を随分長いこと忘れていたんだ。






『どうしてそんなに急いでるの……?アタシ、あなたに伝えなきゃいけないことがあるはずなの……だけどそれも出てこないの……ねぇ待って、止まってよ……!今立ち止まったら思い出せそうな気がするの……!!』







そんなアタシの呼びかけが聞こえているのかいないのか、その人は構うことなくアタシを引き連れ走っていく。

……と、とある地点まで来ると、ようやくその足を止めてアタシを見た。






ーーーそうしてフワリと、頬を緩めて安堵したような顔をして。

「もう安心だ」と……そんなことを言われた気がした、直後。






ズルリッ、

『っ!!あ……!!』






まるで足元の床が抜けたように、アタシの体だけがその人を置いて落下する。

手を伸ばしたその先で、どんどん小さくなっていく金髪の人。






待って……待ってよ……!!行かないでっ……ーーー






『ーーー……!!はっ…』






……気がつくと、アタシは知らない場所のベッドの上にいた。

むくりと上半身を起こすと、夕日に染まった部屋全体を見渡しては現状を理解する。






……ここ、病院……?






ガラガラッ、

「……name……nameっ!!」

『!ママ……』






その入り口から現れたママは、手に持っていたバッグを投げ出してアタシをギュッと抱き締めた。






「name、どこか痛くない!?あなた学校の屋上から落ちたのよ!?」

『……あ、……』

「本当に心配したんだから、もうっ……!!」






……そうだ、アタシ。自殺しようとしてたんだ。







『……アタシ、生きてる……』

「えぇそうよ、本当に良かった……デイダラくんに感謝しなきゃ。」

『!デイダラ……』






その名前を聞いて、アタシは夢の中に出てきたその人を思い出す。






ー「お前、幸せなんじゃなかったのかよ……!??」ー






そうして最後に聞いた、あのセリフも。

でも待って、あの後デイダラは屋上からは居なくなって……






『……デイダラが、どうかしたの……?』

「!覚えてないの……?実は……」






そう言って話してくれたママの言葉に、いても立ってもいられず。

アタシは病み上がりの体で、その場所へと全力疾走していた。






ガララッ!!

『デイダラッ……!!』






でもそうして開けた扉の向こうには、幼馴染みの姿はなく。

代わりにいたのは、赤い髪の友人。






『サソリ……』

「よぉ、起きたのかよ。nameのくせによく迷わねぇで来れたなテメー。」






そんないつもと変わらない口調のサソリは、誰もいないベッドの横で本を読みふけっている。

アタシは走り寄ると、すかさずガッとその腕にすがった。






『サソリ、デイダラは……デイダラはぁ!?』

「落ち着け病み上がりが。体の方は大丈夫なのかよ。」

『アタシのことよりデイダラは!?屋上から飛び降りたアタシのこと、庇ってくれたって……、』






……そう。事のいきさつはこうだ。



あの日屋上から飛び降りようとするアタシに背を向けたデイダラは、アタシが飛び降りるであろうすぐ下の階に行って。

そうして間髪入れず落ちてきたアタシに目がけて窓から飛び出し、アタシを抱き止めてくれたんだと。






そうしてアタシを庇うように地面に体を強打して、今も意識不明の重体だ……と。






『どうしようサソリ……アタシ、アタシ……!!』

「だから落ち着けって。騒いだところでデイダラの奴に会えるわけじゃねぇし。」

『……会え、ない…?』

「あー黙れ、お前今悪い方向に考えてるだろ、それやめろ。まずは人の話を聞け。」

『………はい……』

「いいか、今デイダラの奴はここには居ねぇ。意識が戻ったわけでもねぇ。とにかく今は手術してる、かれこれ3時間だ。」

『さん……じかん…』

「大体地上4階なんつー中途半端な高さから落ちて、やすやすと死ねるわけねぇだろ。」






呆れたようにそう言うと、サソリは手に持っていた本をパタンと閉じる。

そうしてジッ…とアタシを見てくると、アタシにそれが事実であるかを確認した。






「……テメーは死にたかったのか?name。」

『…………。』

「じゃあ当然考えておくべきだろ。それを大人しくさせねぇ奴がいるってことも。」






……そうだった。あのデイダラが、アタシを放置して屋上から出ていくはずなんかなかったのに。



そうやって散々アタシに説教したサソリは、クシャリとアタシの頭をかき乱して席を立つ。






「馬鹿が……心配かけさせんじゃねぇよ。」

『……!』

「とりあえず今はデイダラ待ちだ。もう妙な気は起こすんじゃねぇぞ、その目で奴の顔を拝みたいならな。」






そうしてバタンと部屋を後にしてしまったサソリ。

アタシは脱力したように、その誰もいないベッドにドサリと座り込む。






(デイダラが大怪我したのも、アタシのせいだ……アタシが屋上から飛び降りたりなんかしなければ……。)






でもだからってサソリの言うように、アタシがまた死の真似事なんかできるわけがなかった。

アタシの自殺とデイダラの命を天秤にかけたとき、アタシの死に対する執着心はなんて下らないんだろうと自覚したんだ。






(死ぬことなんか考えてる場合じゃない……ちゃんとデイダラに会って話さなきゃ、だから……!)
























だから、言わせて

夢のあなたに言えなかったこと、今ここでちゃんと伝えるから。


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