36.
『んあ、サイくんっ……駄目だって…!』
ベッドで四つん這いのアタシを羽交い締めするみたいに、背面から覆い被さるサイくん。
ベッドに片手をつき、もう片方でアタシの胸をまさぐるその手を抑えようとアタシは必死だった。
『っはあ、あっ……サイくん、他の人来ちゃうからっ……!』
「それなら大丈夫……ほら、もうすぐ昼休み終わるし。次は僕らの授業もないから、先生にだって邪魔されないよ?」
『そ、そんなぁ……あっ…!』
「だから焦らなくていいよ……僕も可愛いnameちゃんをじっくり見たいしね……?」
そうやって器用に胸のボタンを外すと、サイくんはそのままぐいっとブラを押し上げてくる。
アタシはその場所を直接触られビクリとすれば、抵抗する力も弱くなり口をつぐんで耐えるしかなかった。
『っ……!ふぅ、んっ……』
「……我慢してるんだ?nameちゃん……ここ弱いのに。」
『んッ…!んんん〜〜!!』
どんどん積極的になるサイくんが、そこを執拗に指で転がしてはいじくってくる。
あまりの刺激に声が漏れないよう、咄嗟に両手で口を塞いだアタシだが。
おかげで上半身がガクンとベッドにつんのめってしまっていた。
「……ふふ、すごい足ガクガクいってる……僕のこと意識してくれてるんだ……?」
『ん……んうっ……!!』
「もっと僕のこと考えて……もっと僕でいっぱいにして……?」
唯一お尻だけ突き上げた状態の恥ずかしいアタシに、サイくんの下半身が密着している。
さっきより触れている面積は少なくなっているのに、アタシは余計にその場所を意識してはビクビクと腰を震わせていた。
ーーーどうしてアタシ、こんなことしてるんだろう。
「ん、はぁっ……!やだっあ、nameちゃん…っ……好き……」
サイくんを悲しませたくないから?
サイくんがこの行為に幸せを感じてくれるから?
……じゃあそんなサイくんに対して、何でアタシはこんなにも惨めなんだろう。
サイくんが幸せを感じるこのときに、何でアタシは幸せから遠ざかってしまうんだろう。
(駄目、そんなこと考えちゃ……アタシはサイくんが好きなんだから……!!)
デイダラをフッてしまったあのときから、アタシにはもうサイくんしか残されていないんだから。
(好きにならなきゃ……もっともっとサイくんのこと、好きにならなきゃ……!!)
アタシがもっとそれを頑張りさえすれば、アタシを好きなサイくんはもっと喜んでくれるし、そのまま将来を誓ったゴールインだって出来るんだろう。
なのにアタシはこんなにも足掻いて、もがいて、またそれを繰り返そうとしている。
ーーーまたその定位置を、幼馴染みにすり替えたいと願っているんだ。
ガララッ、
「おいname!!いるのか!?」
『!!!』
すると突然保健室の扉が開かれた音と。
今まさに頭の中で思い描いていた人物がカーテンの向こうにいるであろう事実に、アタシはただただ目を丸くするばかり。
デイ……ダラ……?
「あれぇ?いないっスねぇ。でも机は二つ並んで置いてあるっスよ先輩!やっぱりここで授業受けてたのは本当みたいっスね!」
どうやらトビくんも一緒なようで、その聞き慣れた声にホッとする反面、今の自分が置かれた境遇に芯から凍りついてしまう。
すると何を思ったのか、サイくんが突然アタシの耳を甘噛みしてきた。
『ッ〜〜!??』
(……nameちゃん、シーッだからね……?)
アタシにしか聞こえないよう囁くと、その手がスルスルとアタシの股の方へと下りていく。
「もう今日は二人とも帰っちゃったんじゃないスかぁ?」
『ッ!っ……!!』
「そりゃあないだろ、うん。だってこれnameのカバンだし、さすがに置きっぱなしのまま帰んないだろ、うん。」
『っ、〜〜…!!』
「でも他にどこ行ってるっていうんスかぁ?自分のクラスにも顔出さないような奴と……あ、」
するとそこで閃いたような声を上げると、その足音がカーテン越しに迫ってくる。
「ほらほら先輩!やっぱり保健室といえば、こういうところでイチャイチャしてたりしてぇ、」
『っ……!!』
アタシはまさかの展開に、サァっと全身の血の気が引いていく。
なのに下をいじくられてるせいで、アタシはその手助けをするように自ら声を出して居場所を知らせようとしているのだ。
(いやぁ……やだやだっ駄目だめっ、絶対だめぇ……!!)
それはトビくんが開けようとするのを阻止したいのか、それともサイくんにイタズラしないでほしいのか。
デイダラに気づかれないよう祈ってるのか、はては自身に声を出さないよう戒めているのか……もはや誰に対してのメッセージなのかもわからない。
そうして一枚越しの布が揺れた瞬間。
アタシは声が出る寸前だった。
「……馬鹿。nameはそんなことしないっての。うん。」
『!!!』
「え〜先輩ってばつまんないっスねぇ。けどわかんないっスよ?なんたってnameちゃんは可愛いっスからね!相手がその気になっちゃえば……」
「うるせぇよ!!お前の妄想とnameを一緒にすんな!!」
「アイタァーッ!!つ、つむじが!つむじから赤い噴水がぁー!!」
「そんなの出てないから安心しろ、うん!!いいから行くぞトビ!!もう5限目始まるぞ!!」
そうして二人は慌ただしく行ってしまった。
出て行ったとほぼ同時に、5時限目始まりのチャイムが鳴る。
ーーーアタシはポロリと、涙が溢れて止まらなくなっていた。
(デイダラ……まだアタシのこと、そんなふうに思ってくれてたんだ……。)
アタシがただ純粋に、サイくんと恋愛しているんだと。
デイダラといたときと変わらない気持ちで、サイくんに触れ合い接していると。
なのにアタシは今こうして、股をぐちゃぐちゃに濡らしている。
ー「……馬鹿。nameはそんなことしないっての。うん。」ー
デイダラの気持ちも、裏切った。アタシはこんなに汚れてしまったんだ。
「……ふふっ……笑っちゃうよね。あいつがnameちゃんの何を知ってるって言うんだろう。」
すると頭上から突然降ってきた声に、アタシはビクリと体を震わせる。
途端に視界が反転し、ベッドにドサリと仰向けたアタシの泣き顔を見て……サイくんは心底おかしそうに笑っていた。
「nameちゃんがこんな可愛い顔するってことも、知らないくせにね……?」
『……!!』
……アタシはこのとき、気づいてしまった。
もうサイくんへの好意が折れてしまったことに。
気持ちと体は正直者それでも彼に抱かれれば、相も変わらず反応し続けてたんだ。
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