29/2.
祭りを最後まで楽しんだ時分に来たのは、これまた懐かしい夢の国。
『よかったぁ、まだやってて……。』
「けど閉園時間まであんまないぞ、うん。」
『大丈夫。アタシが乗りたいの、アレだけだから。』
そう言ってnameが指差したのは、きらびやかにライトアップされた観覧車。
あの日オイラが連れて行ったその席に、今日はnameに連れられる。
記憶にある通りの速さで、ゆっくりと上へとのぼっていった。
『なんか、不思議だね。あの頃は、もっと大きな遊園地だと思ってたのに……。』
「だな。やけに絶叫系少なかったりキャラものだったり。ガキ向けのアトラクションだよな、うん。」
あの頃のガキのオイラたちにはわからなかったけど。
そうして随分高いところまで来れば、遠くの方で光が上がった。
どうやら花火大会が始まったみたいだ。
『うわぁやった…!もしかしてココ特等席じゃない?』
「そうだな、ものの数十分で下に降りちまうけどな、うん。」
『そっか、そうだよね……じゃあ早く済ませなきゃだね。』
そう言うとnameはスッと立ち上がり。
向かいに座るオイラの方まで歩み寄ってくる。
「お、おいnameあんまこっち来んなよ。ここのアトラクション古いし、昔よりオイラたち図体でかくなったから傾くぞ、うん。」
『……じゃあデイダラも、こっちに来て?』
「は……、」
そうしてニコリと自然な笑みが出てくるようになったnameに誘われて。
オイラは言われるままに立ち上がり、数歩前に出て……ゴンドラの中央にいるnameと向かい合った。
(な……何だよこの状況、うん……。)
そうやってある程度の緊張感を持って身構えていると、
ギュッ……
「!!」
nameはオイラの片手を、握り込んできた。
そうして次にはその身を寄せて、ピタリとオイラにくっついた。
「な……!!ちょ、name何して、」
『しーっ。』
そうやって人差し指を口元に当てて、オイラを見上げ沈黙を促すnameは。
まるで艶っぽい大人を演じているようで、オイラの心臓がどんどん脈打っては加速する。
(ヤバい……何だよこれ拷問かよ!?オイラにどうしろと!?いっそ抱きしめていいのか!?けど前科あるから下手なこと出来ねぇし……!!)
『…………。』
そんなオイラの気も知らず、また顎を戻してオイラの胸に耳を当てるname。
しばらくジッと、そうしていた……かと思うと、スッとその身をゆっくりと離した。
『ありがとうデイダラ……よく分かったよ。』
「ハァ、ハァ、いや……どういたしまして…?」
軽く息切れを起こすオイラは、屈み込んでは心臓に手を当てた。
マジで……マジで身が持たねぇっての、うん……!!
するとnameは事が済んだのか、ストンとまた座席に戻ると、しばらく打ち上がる花火を見ていた。
その横顔が、色とりどりの光に照らされて本当に綺麗だった……そんなことを考えていたとき。
『あのね……今日はお別れを言いに来たの。』
……ん?何だ、聞き間違いか……?
『思えばデイダラは、誰も頼りにできなかったアタシを慰めようとしてたんだもんね……。』
思考が全く追いつかないオイラに対して、その顔をゆっくりと向けてくるname。
その表情は、オイラの今までの所業を許すような……慈悲にも近いものだった。
『ありがとうデイダラ……でももう、大丈夫だから。』
「………!!」
ようやくその意味が飲み込めてきたオイラは、そのままガシッとnameの肩を掴んでいた。
「おいname、お前一人で何言って……何だよ、お別れって…!?」
……あの日、オイラがnameに噛み付いたことへの罰なのか。
それともオイラが謝っていれさえすれば、今のこの状況はなかったのだろうか。
『あのね……お別れって言っても、何も今後会えなくなるとか、そんなんじゃないから。ただあの日の約束と、サヨナラしようって、』
「何がサヨナラだよ、あれか?オイラたち結婚しようとか言ってたあれか?」
『うん、そう……でも所詮は子どもの言うことだもんね。オママゴトみたいな約束を、アタシったらいつまでも引きずって……デイダラだって、もうそんなのどうでもいいよね……。』
「いや、どうでもいいとか悪いとか、そういう話じゃなくてよ、」
『ありがとうデイダラ、アタシの心の支えになってくれて……アタシ、デイダラのおかげで今日まで来れた。デイダラがアタシを必要としてくれたから、今日まで生きてこれたんだよ。』
「っ……じゃあこれからも、そうすりゃいいだろ……お前はもっとオイラに甘えてればいいんだよ、うん……!!」
『それじゃあ駄目……デイダラだって、好きなように生きなくちゃ。もうアタシと結婚だなんて、縛られなくていいんだよ……?』
まるで子供を慰めるみたいにオイラの頭を撫でてくるnameの、その目は未だに慈愛に満ちていて。
それを直視できなくなったオイラは、言われた事実を無くすように、途端にnameに抱きついていた。
『っ、デイダラ……』
「何なんだよ急に!!一人で完結しやがって!!」
『…………。』
「お前はずっとオイラと一緒にいればいいんだよ!!この先ずっと、そうやってオイラに好きなだけ迷惑かけてりゃそれで!!」
だが遂には黙りこくってしまったnameにビクリとする。
よもや絞め殺してしまったんじゃないかと恐怖にかられるが、幸いそんなことはなく。
しがみついたオイラの腕を、両の手でしっかりと握り込んで応えてくれていた。
(ッ……!!!)
……今度はそれを、壊さないように。
弱めた力で抱いたオイラは、感情の行き場をなくした分だけ震えに変わっていた。
「なぁname、違うんだ……ガキの戯言じゃないんだ……」
『うん…うん……』
「オイラ本当にお前が……今でもお前が……」
だがそうやって口に出そうとすれば、喉の奥で消えていく。
そんなオイラの気を知ってか知らずか、nameはやすやすとそれを口にした。
『ありがとうデイダラ……アタシこれからもずっと、デイダラのこと大好きだよ……!』
ーーーそうやってnameが、オイラの言いたかった言葉を口にしたせいで。
オイラが抱いた、その言葉の持つ質量が失われた気がした。
"大好き"の重さオイラが仮にその言葉を伝えたとしても、nameの言う"大好き"と同等にしか伝わらないんだから。
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