デイダラ長編 | ナノ
28.














時刻は午後3時。

待ち合わせた家の門構えには、既にサイくんがいた。






うっすらと縦線の入った、濃い灰色の浴衣でスラリと立っている。






『お、お待たせサイくん。』

「こんにちはnameちゃん……何かいつもと雰囲気違うね。」

『あはは、サイくんもね。浴衣かっこいいね。』

「nameちゃんも可愛い。似合ってるね、それ。」

『あ、ありがとう……。』

「手、繋いでもいい?」






調子の良さそうなサイくんは、早速アタシに手を伸ばしてくる。

いつもアタシから掴みに行ってるその手を逆に差し出され、何故かドキリと反応するアタシ。






今更のように目を泳がせて、人の目を気にして……でも周りにも似たような人たちがいたので、恐る恐るその手を取った。






「お祭りに行くの、久々だな。」

『そ、そうなの?』

「小さい頃は行ってた気もするけど、この歳になったらイベントとかあんまり興味なくって。」

『そうなんだぁ、アタシは毎年行ってるよ!』

「例の幼馴染みと?」






あ、地雷踏んだ。

何でアタシはこうサラッと幼馴染みをチラつかせるようなこと言っちゃうんだろう。






『う、うん……まぁそうなんだけどね……。』

「そんな縮こまらないでよ、妬んでるわけじゃないから。言ったでしょ?過去は過去でしかないって。僕はこうして、nameちゃんが今の僕を選んで一緒にいてくれれば、それでいいよ。」






なんて大人なことを言うサイくんは、カランコロンと下駄を鳴らしてアタシの半歩先を行く。

アタシは取り繕うように、慌てて話題を持ちかけた。






『で、でも今回のお祭りははじめて!毎年全国を転々としてる花火大会!今年は隣町に来るなんてもうビックリだよ〜!』

「へぇ、そうなんだ。」

『すごいんだよ!全国の有名な花火師が来てくれて、ドーンと打ち上げるの!ワクワクするよね!』

「そうだね。人混みもすごいと思うから、迷子にならないようにね。」

『う、うんっ…………』






隣町へは、電車で行く。

駅まではもう少し歩くことになる。






沈黙は、いただけないけど……アタシは話題となった花火で、幼馴染みを思い出さずにはいられなかった。






ー「芸術は爆発だ!!うん!!」ー

ー『へ!?な、何どうしたのデイダラ!?』ー

ー「だって花火ったら一瞬の美なんだぞ!?オイラはなんなら花火に生まれてきてもいい!!」ー

ー『えぇ〜ヤダよ!デイダラはアタシと結婚するんだもん!花火みたいにドーンてなって消えちゃダメ!』ー

ー「ん?……あぁ、そうだったな!オイラnameと結婚するから大丈夫だ、うん!花火なんか勝手に爆発してろー!!」ー

ー『してろー!!っぷ、あはははは!!』ー






「また考えてる?」

『え、はっ!』






耳元にフッと息がかかり、アタシは我に帰れば顔中に一気に血がのぼる。






『へ、いやっこれはその!連想ゲームといいますか!頭の中で花火→爆発→火事→オヤジって感じでね!!』

「わかってはいたけど、nameちゃんって本当に掴むの難しいよね。」

『へ……』

「僕といるときでも、必ずその頭の引き出しから幼馴染みのこと引っ張り出してくるんだから。」

『……ご、ごめん……。』

「いいよ。そんなすぐ僕に気が向くとは思ってないとも言ったしね。」






そう言ってアタシに対して強く求めないサイくんだったけど。






アタシの幼馴染みに対する思い入れを、さも気にしていないと言うよりは。

既に諦めてると言ったほうが正しいように思えた。






『ごめんねサイくん……アタシ、ずっと幼馴染みのこと好きって思ってたから、なかなか抜けなくって……』

「前にも聞いたけどさ、あんなことがあったのに?まだ好きって思えるの?普通は冷めると思うけど。」

『あんなことがあったんだけど、会うとすっごく怖いんだけど……やっぱり何か特別っていうか、』

「僕の特別はnameちゃんだけだよ。」

『へ?』






アタシは思わず立ち止まると、繋がれた手がピンと張り。

つられた反動で、サイくんもクルリとアタシを向く。






「nameちゃんは、僕の特別な人。僕に感情をくれたからね。」

『…………。』






改めてそう肯定されて、アタシは自分の常識がくつがえされた気がした。






ーーーだってアタシの特別は、デイダラだと思ってたから。






ー「オイラがずっとnameと一緒にいるっ…!オイラがずっとnameを幸せにする……!」ー






特別があれば、その相手と結ばれる理由になると思ってた。



じゃあアタシがデイダラに感じてる特別と、サイくんがアタシに感じてる特別って……一体どっちを優先するべきなんだろう。






ー『う〜んデイダラありがとう!やっぱりダイスキ!!』ー






人を愛することと、人から愛されること。






ー「好きだよMちゃん、僕に感情をくれた人。」ー






デイダラを愛することと、サイくんに愛されること。

どちらを選ぶのが正解なんだろう。






「僕ってあんまり顔に出ないからわかりづらいかもしれないけど……今だって本当に、nameちゃんといて嬉しいんだよ?こんなに胸がドキドキして、こんなのnameちゃんだけなんだよ?」

『!!』

「nameちゃんはないの?僕に特別抱く感情って。」






それを彼に問われて、ハッとした。

アタシが抱く、サイくんへの特別……思い当たる節ならたくさんあった。






ー「手、繋いでもいい?」ー






さっきもそう言われてドキッとしたし、






ー「可愛いね、nameちゃん。」ー






可愛いって言われたらドキドキした。



顔中キスされたり、おでこにチューだって、なんだか胸が熱くなって、それから………
























ーーーアタシは無言で、サイくんの心臓に耳を当てていた。






「!!ちょ……っと、nameちゃんっ…」






少しだけ上ずった声で、顔を赤面させるサイくん。

手を繋いでいない方の手で鼻を押さえて、動揺を隠そうとするその姿。






でもアタシには、そんなの視界に入らなくて……ただ、サイくんの速くなる鼓動を聞いていた。






(ほんとだ……サイくんのすごいドクドクいってる……。)






それと重なるように、寄り添ったアタシの心臓もドクドク、ドクドク。






(デイダラ相手のときに、アタシこんなにドキドキしたことあったっけ……?)






ぼんやりする頭で、ふとそんな疑問が沸き起こっていた。






ー『やっぱりアタシの言った通り!!ほら見て鏡!すっごく可愛い、食べちゃいたい!!』ー






アタシがデイダラに対したときの、あの気持ちの昂りようは。

あれはドキドキと顔が赤くなるようなものではなく、ぐぐぐーっと気持ちが持ち上がって、嬉しいに近いものだった。



それは好きな俳優やアーティストに抱くような……ファンがターゲットに歓喜するような、あの感じ。






(アタシは今まで“好き”じゃなくて、そういうことだったの……!?)






わからない。今となってはもう、そんな記憶の中の幼馴染みでしか確かめようがないんだもの。






ーーーだからアタシは、決心したんだ。






『ごめん、サイくん……アタシ行かなきゃ。』

「……!行くって、どこに?」

『デイダラの、ところ……アタシ、やらなきゃいけないことがあるの。今じゃなきゃ駄目なの。』






駅を目の前にして、アタシはそっと彼から離れる。

ホームには、乗る予定だった電車が今まさに到着した頃だった。






「…………nameちゃん待って、おかしいよ?何であんな奴のほうを優先させるのさ?」

『そうだよね、ホントおかしいよね……だけど今アタシ、確かめなくちゃいけないの。本当にごめん。』

「会ったところでまた怖くなるんでしょ?固まって、怖気づいて……そうなったら誰も君を庇ってやれない。」

『わかってる、わかってるけど……今度はアタシ、頑張るから。だから、ごめん。』

「…………。」






説得が無理だと感じたのだろう。

サイくんは動揺した顔が、みるみる脱力していくようだった。





そうして緩んだ手を離そうとしたとき……今一度ガシリと、サイくんはアタシの腕を掴み込んだ。






「それじゃあ、僕のお願いも聞いてよ。」

『!え……』

「君が僕を好きになってくれるよう働きかけてきたつもりだけど、返事だって気長に待とうとしたけど……今そうやって幼馴染みのところに行こうとするなら、その返事。今日聞かせてよ。」






アタシの目を真っ直ぐ見つめるサイくんは……今までにないくらい、とても不安に満ちた表情をしていた。






「イエスでもノーでも、どんな結果でもいいから……このあと必ず、伝えに来て。」

『……サイくん……、』

「どんなに遅くなっても、0時をまたいだっていい……僕、待ってるから……。」






それを伝え終えて、ゆっくりと手を離す。






『わかった』と告げて、少しだけ名残惜しさを残し。

アタシは彼に背を向けて、慌ただしく走り去っていた。
























三角形の優先順位

それが今、わかりかけてる気がするから。


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