デイダラ長編 | ナノ
13.














『でさ!やっぱり感情を探すとなると、本で調べるのが一番だと思うんだよね!』






どさっ。

アタシが図書室から徹底的にかき集めたのは、見ただけで頭が痛くなるようなハードカバーもの。



でも横にいたサイくんは、チラリとだけ見ると首を本棚へと戻した。






「結局考えが安易なんだよね。調べてどうにかなるなら、君に頼らなくったって初めからそうしてるよ。それと悪いけど、ここに積まれた本の山なら既に読み尽くした後だよ。」

『えぇええ!?と、図書室の本全部!?』

「なわけないでしょ。主に哲学とか倫理学とか。自分の感情を探すのに、ファンタジーなんか読んでも仕方ないでしょ。」

『んーや!わかんないよぉ!サイくんは実はロワンチストかもしれない!』

「ロマンチストね。言えてない。」






無表情ながらも的確なツッコミをするサイくん。

でもせっかく高いところからかき集めたのに、一蹴にするとは相も変わらず非情だなぁ。






しぶしぶ元の位置まで戻すのに、アタシはまた踏み台に登っては降り、登っては降りを繰り返す。

その間にも高い位置から、サイくんのつむじに話しかけた。






『むーん、じゃあやりたいことは?サイくんのやりたいこといっぱいしようよ!』

「やりたいことねぇ。そうは言われても、やっぱりすぐにはピンと来ないよ。」

『うっそだぁ〜、アタシなんかやりたいことだらけなのに!そうだ!お友達欲しくないの?アタシが紹介したげるよ!』

「要らない。それよりそこの本とってくれない?」

『ん、どこどこ?』

「ちょうど僕の棚の一番上にあるやつ。踏み台使ってるんだから、短足な君でも届くだろ。」

『ほんとサイくんってば人の悪口ばっかり言うなぁ、毎日鏡の前で練習でもしてるの?』

「するわけないでしょ。いいから早くとってくれない?」






いやでもね、アタシの片手には、まだ戻し終わってない本が大量にあるのですよサイくん。

それでもアタシは踏み台の位置は動かさず、彼の目の前にある本棚にへばりつけば手を伸ばした。






『うーんしょ、あ、取れた……!』






と思ったのもつかの間、やっぱりそう上手く事は運ばない。

アタシの片手がおろそかになれば、ドサササッと持っていた本たちが落下する。






『あ、サイくんごめん!落っことしちゃったよ!』

「見ればわかるよ。報告なんかしてないで早く拾いなよ。」

『え〜、そこは手伝ってよ、せっかくサイくんのためにかき集めたのに……ってうっわ!』






と更にドンと勢い余れば、本棚がぐらつき収まっていたいくつかが雪崩れてしまう。



サイくん危な……いや、彼は難なく横にずれて回避していた。

う〜ん、反射神経の賜物である。






「何やってるのさ。頭に落ちてきたら危ないだろ。それともわざとなの?死ぬの?」

『わざとなんかじゃないよ〜、人聞きが悪いなぁ。』

「言い訳はいいよ。そんな口を動かす暇があるなら手を動かしたら?」

『はいはい分かりましたよ!動かしますとも手を!』






アタシがこれまたしぶしぶ本を拾いに屈み込む。

でもサイくんの毒舌は、相手の感情とかがわからないから得てしてそうなっちゃってるんだろうか。






難解なことはさっぱりわかんないや……とそこで、散らばった本の中にあるものを見つけた。





『……サイくんって、字ぃ上手だね。』

「今度は何なの急に。おだてたって何も出ないよ。」

『いやほら、この本の最後のページにあるポケット、貸し出しカード挟まってるでしょ?それにサイくんの名前かいてあるからさ。この本サイくん借りたんだね。』

「それがここの本を借りるシステムだから、必然的にそうなるね。」

『でもやっぱり字ぃうまいなぁ、お手本とかにある明朝体?みたいな?先生の字みたいでかっこいい!』

「君が汚いだけでしょ。授業中に君のノート見たけど、何あの丸字。」

『それでもやっぱり上手だよサイくん!アタシに比べてとかじゃなくって、こんな綺麗な字書いてる友達滅多にいないもん!』






だって事実アタシはこんなだし、男の子にしては綺麗な字を書くデイダラも、比べてしまえばやっぱり雑。

意外なのはサソリで、意地悪なのか何なのか、自分にしか解らない暗号風に書かれたノートを借りたときは泣きついたっけ。






……あ、トビくんのは例外ね!あれ宇宙語だから、読めないから!






「それはいいけど本題はどうしたの?僕の感情とかやりたいこと、探してくれるんじゃなかったの?」

『あ、そうだった!忘れてた!』

「忘れるくらいならもういいよ、してくれなくて。」

『んーや、するから!アタシ絶対探すから!けどもうちょっと待ってね、今なんかいいアイディアが出かけた気が……、』

「早くしなよ、日が暮れるよ。」






いつまで経ってもサイくんは無関心、その隣でアタシは頭を捻らせる。



サイくんのやりたいこと、やりたいこと……あ、そうだ!これだ!






『ねぇねぇサイくん!アタシいいこと思い付いちゃった!ちょっとお耳を貸してな!』

「貸したくないけど、君騒ぐとうるさいから。で、何?」

『サイくんってさ、字のコンクールとか出したことある?ほら、クラスから代表で選ばれるやつ!』

「硬筆と毛筆のこと?まぁ小さい頃はよく選ばれてたけど。特に毛筆のほうだったかな、僕の場合。」

『いいじゃんすごいじゃん!それやろうよサイくん!そんな才能あるんだったらさ!』

「昔の話だよ。今じゃ授業自体も出なくなったから、出展することも無くなったし。」

『えーもったいないって!サイくんまたチャレンジしてみたら?あ!ちょうどアタシ学校に今持ってきてるかも!ちょっと待ってて!』






そう言ってアタシは承諾も得ないまま、一度彼を置いて図書室を出る。

走ってそれを手にまた戻れば、図書室はさっきよりも人がだいぶ減った気がする。






サイくん気まぐれだから、先帰っちゃったかな……いや、居た!まだ居てくれた!おんなじとこに!



アタシは急いで駆け寄れば、パカリとそのカバンを開けた。






『じゃーん!ほらほらサイくん、アタシのお習字セット!』

「汚いね。」

『ほら!墨も筆も、ブンチンもあるよ!これで書きなよ、絶対いいの書けるって!』






まるで押し売り販売をするインチキ業者みたいに、アタシは“もうこれしかないっ!”と彼に勧める。

しばらく筆先を撫でていたサイくんだったけど、早速欠陥商品にケチをつけ始めた。






「使った後ちゃんと洗ってなかったでしょ。墨がこびりついて硬いし汚い、筆先ボサボサ。こんなんでまともな字が書けるわけないでしょ。」

『えー!?そんなぁ、お願い!書いてよサイくん!』

「それにいつから使ってるの、この筆。」

『ん?えーっと、買ったのが小学校のときだから……、』

「じゃあ十年以上は使いっぱなしなわけだ。そんな傷んだ筆先で何ができるわけもないでしょ、止めも払いも墨がノらない。諦めなよ。」

『ダメダメダメェー!サイくんじゃなきゃ駄目なの!書いてくんなきゃ絶対ダメ!』






だって、せっかく人より出来るのに、才能あるのに……それをみすみすポシャっちゃうなんて、もったいない。



アタシが辛抱強く見つめていれば、サイくんのほうでため息が漏れた。






「……道具なら、家にいくらでもある。」

『!』

「中途半端にはやりたくないからね。それなりの道具と、それなりの環境でやらせてもらうよ。君にその当てがあるならだけど。」

『……!あ、当てならあるよ!ほらこっち!』






アタシはやる気になってくれたサイくんを連れて、ある場所を目指す。

ガラガラッと扉を開ければ、掴んでいた彼の手をパッと離した。






『へへーん!ここの空き教室もお気に入りなんだ!旧校舎だったときの名残で、未だにここだけ木の床なの!』

「……へぇ、そう。」

『ねぇどう?ここでならいいの書けそう?』

「書けなくもないってとこかな。」

『!じゃあ書いてくれるんだね!?やったぁ!』





アタシはその場でピョンピョン跳ねれば、そのままサイくんを正面から迎えてギュッと両手首を握り込む。






『明日から二人で特訓だね、サイくん!』

「!」

『一緒に頑張ろうよ、サイくんのようやく出来た“やりたいこと”なんだからさ!』






未だにピョンピョン跳ね続けるアタシの振動で、サイくんの腕もぐらぐら揺れる。

これからきっと、サイくんの感情が見つかることを信じて。
























放課後のロマネスク

「……君もやるの?」

『そーだよ!アタシもいっぱい書いて上手くなるから!』

「それは無理だよ。手の生命線の短い人は、書体が崩れる傾向にあるから。」

『うそぉん!?』

「うん、嘘。」

『……へ……?』

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