(1).
「nameの弱点だぁ?」
席についたままの旦那が、机を囲むオイラたちに偏見的な目を向ける。
もちろん発案者は、命知らずな飛段の奴だ。
「だってよぉ、女だったら何かしら苦手なもんってのがあんだろぉ?おばけが怖くてキャーっつって。あの強気なnameちゃんに夜道で抱きつかれたら正直勃たね?」
「テメーはその辺の女見てるだけで年がら年中フルボッキだろうが。」
「……けど思えば、オイラもnameとは中学からの付き合いだけど、それっぽい拒絶はまだ見たことねぇもんな、うん。」
「くだらねぇ。んなもん知ったところで何になる。テメーらで勝手にやってろ。」
「んじゃお言葉に甘えてっと……なわけでデイダラちゃん、早速実行開始だぜぇ!ゲハハハハァ!」
こうして、旦那を除いた飛段とオイラ二人の“nameの弱点探り隊”が始動した。
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「なぁnameちゃあん!」
『なに飛段、またあのジャシンなんたらっていう怪しい宗教勧誘ならお断りよ。』
まず一番手は言いだしっぺの飛段。
いかにも“何かやらかします”と顔に書いてある飛段を早速不信がるnameだったが。
「じゃーん!ゲハハハァ!どうよ、とれたて新鮮ホヤホヤだぜぇ!」
『っ!』
そう言って後ろに隠し持っていたものを自慢気にさらけ出す飛段―――その手には女子の嫌がるものランキング上位のアイツが。
飛段に串刺し状にされたそれは、まだ完全には死んでいないようで。
キシキシと手足触角をうごめかせば、当然nameはその光景にクワッと目を見開いた。
(一発目からこれはさすがにキツいか……?)
『馬鹿、なにやってんのよ!生き物はもっと大事にしなさいってば!』
「へぇ?」
そう言うが早いか、nameはなんとそいつを躊躇いもなく抜き取り窓の外に放った。
……男のオイラでも触りたくはねぇってのに。
「……nameちゃん、普通にゴキブリ平気なんだな。」
『ん、別に?さすがに自分の部屋とかにいたら嫌だけど。学校とかなら外に逃がしてあげれば済む話でしょ。』
「いや、そんな蜂やちょうちょじゃねぇんだからよ。」
あの飛段の発言が正論に聞こえるほど、今のnameの行動はオイラたちを驚かせた。
『大体ちゃんと掃除しないからゴキブリだって沸いてくるのよ』と付け加えれば、nameは平然と手を洗いに行く。
……これはなかなか骨が折れそうだな、うん。
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となれば次はオイラの番。
放課後いつものように美術部の活動を始めたオイラたち。
諸事情で今日は飛段も同行しているが。
「なぁname、ちょっと隣の準備室からオイラの予備粘土とってきてくんねぇか。」
『ん、いいよ。』
オイラの頼みにもふたつ返事で承諾してくれたnameは、旦那の横を通りその陰湿な部屋の扉を開ける。
「あ、あのよname、準備室のドアは開けっぱなしにしないでくれよ。換気とかすると部屋の環境が変わって粘土の質が悪くなるからよ、うん。」
『へー、そんなことがあるんだ。了解。』
オイラの適当な当てつけに何の疑いも示さないnameは、そのまま暗闇が支配する部屋に入っていった。
そう、ここでオイラが試しているのは、nameの暗所恐怖症と閉所恐怖症。
nameの入ったその部屋には、電球はおろか窓もない。
加えて部屋には美術用具がごった返しているため、かなり圧迫感のある閉鎖的空間だ。
『キャアーッ!!』
「「!!」」
すると思わぬ好反応。
たちまち絶叫が響き渡りオイラたちが期待の視線を向けた先には……
『デイダラごめんっ!すぐそこにあった鳥の造形壊しちゃった!真っ暗で何にも見えなくて、手を伸ばしたらつい……』
「オイラの芸術がああああ!!」
「ミイラ取りがミイラになったな。傑作。」
「何やってんだよデイダラちゃん。期待はずれもいいとこだぜぇ。」
見るも無惨な粘土の残骸を両手に、旦那には鼻で笑われ、飛段には呆れられ。
nameには何度も頭を下げられる。
……人を呪わば穴ふたつってやつを、オイラは身を持って実感した。呪ってねぇのに。
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「あーあ、結局何もわかんなかったなデイダラちゃん。」
「オイラの芸術がオイラの芸術がオイラの……」
『ほんとごめんってデイダラ。今度何か奢ってあげるからさ。』
「んなナメクジ野郎を気にかけてやる義理はねぇよ。ただの自業自得だ。」
久々に4人全員が揃っての帰り道。
ひたすら落ち込むしかないオイラの隣には飛段、その前では旦那とnameが先を歩いている。
何かもうゴキブリ掴んだ時点で感ずいてたけど、nameのやつ無敵じゃねぇか!
「……んあ?おいデイダラちゃん、アレどう思うよ。」
「はぁ?何が……」
すっかり気力を無くしたオイラがその示された方を見れば……何かの違和感がそこにはあった。
「……なぁサソリの旦那、」
「んだよナメクジ。その豆腐メンタル抱えて土に還る方法でも思いついたか?」
「その毒舌にも突っ込みどころはあるんだけどよ、うん。けど……」
『けど?』
「いや………さっきっから旦那、何回nameと入れ替わってんだろうって。うん。」
オイラのその問いかけに、しかし本人たちも自覚がないようで。
「はぁ?何が言いてぇんだテメーは。」
「いやだからよ、オイラたち今2対2で歩いてるだろ?んで学校出たときは、確かに旦那がオイラの前歩いてたんだよ。けどさっきはそれがnameになってて、今はまた旦那に戻ってんだよ、うん。」
『つまり、サソリとアタシの位置がころころ変わると。そういえば特に意識はしてなかったけど、何でだろうね。』
「さぁな。けどいつものことじゃねぇか。」
と、そこまで言ってすぐ旦那が「あぁ、あれかもな」と口に出す。
それを旦那がnameに耳打ちすれば『あぁ、あれだね』と二人で合点を打った。
「さっきから何なんだよお二人さんよぉ!」
『あぁごめん。えっと、昔アタシが車道側を歩いてたらね、バイクとの接触事故を起こしたことがあるのよ。その時にどういうわけかパックリ腕が裂けちゃって。』
「うわ……そりゃひでぇな、うん。」
『もう傷痕は残ってないんだけどさ。そういえばここ何年も車道側は歩いたことないかも。一人の時も歩道の側端すれすれを通るし。』
「そんなこともあったな。言われてみりゃあ、オレも何かとテメーが横にいるときは自然と車道側だな。」
『懐かしいね〜』とか、「テメーが警戒心ねぇからだろ」とか、痛々しい昔話に花を咲かせる旦那とname。
なるほど、つまりnameは無自覚のうちに車との接触を恐れて、車道のある方から遠ざかるように歩いてたってわけか。
オイラがうんうんと納得していれば……そこでうん?と首を捻る。
……いや、nameのその行動はわかる。
けど旦那と二人で並んで歩いてたら、そんなうまく立ち位置が入れ替わるわけないだろ。
「何さっきからうろちょろしてんだ馬鹿、そっち側歩け」ってなるよな、普通。
―――つまり歩道の側端を歩くnameに合わせるように、あえて車道側を歩こうとする旦那って…………
「あんときのテメーはヤバかったな。隣歩いてたオレは、ただテメーの出血を見てるしかできなくてよ。」
……あぁ、どうやらあの旦那も、その恐怖に縛られているようだ。
無自覚キミ保護後遺症発症場所:車道に面した歩道。
発症の条件:name
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