彼は今、隣に居ない。
むしろ、彼が居なくなって1年以上が経っていた。
「ティエリア…」
少しだけ溢れた涙を拭った。
こんなところを見られたら、また心配されてしまう…
…明日は、世間一般的に言うホワイトデー。
ミレイナたちに頼んだある事のために話をしていたが…
『スピカ、まだ出てこない…?』
『お部屋に篭りっきりですぅ…』
…という、予想外の状況。ミレイナがかなり心配そうにしている。
『きっと辛いことでも思い出したのよ…』
『僕に任せてくれ。』
…辛いことを思い出す原因は、僕に有る。
ならば、ちゃんと僕から話さなければならない。
彼女の部屋のコンピューターに、アクセス。
『スピカ…』
「ティエリア…?」
『一人にさせてすまない…』
「話が出来ただけでも…うれしい…」
…少し泣いているようだ。
「…ティエリア、あなたが帰って来なかったとき…本当に悲しかった…」
彼女が言うのは、僕に触れられない悲しみのことを言っているのだろう。
確かに、僕は彼女を置き去りにしてしまった。
「このままじゃいけない、そう分かっているはずなのに… なのに…」
『…強がらなくていい、我慢しなくていい。辛いなら泣いたらいい… 疲れるまで泣いて、眠ってからリセットしてから再度始めてみればいい。』
…これはロックオンからの受け売りだ。もし彼女が辛いことに直面した時に教えてあげて欲しいと言われたものでもある。
気のせいか、涙が溢れたような気がする。
「ティエリア…泣いてる?」
『君よりかは泣いていない…』
だが、それは事実かどうかは定かではないが。
『…君が辛い顔をするのは、僕も悲しいから…』
「………」
『…後でたくさん泣いて、今度はいい笑顔を見せてくれ。僕は君の笑顔が好きだからな…』
「うん……」
キスが出来ないのはもどかしいが、直接言葉を伝えられることだけでもいい。
今は、涙に触れられたくはなかったから…
…それから私は色々な事を思い出してたくさん泣いた。
眠ってしまうほどどれくらい泣いたか忘れてしまった。
「おはよう…」
その翌朝…
「あら、おはようスピカ。今日はすっきりした表情してるじゃない。」
スメラギさんに、すっきりしたと言われて少し意外だった。
「おはようございますぅ!」
「えぇ、おはよう…」
「アーデさんからのプレゼントですぅ!」
ミレイナから渡されたのは水色の包み。
「厳密に言うと、ティエリアがチョイスしたものを代理で私達が…って感じね。」
「二人もありがとう…後でティエリアにお礼しなくちゃ。」
包みの中には、洒落た円筒状の箱に入ったチョコレート。
白いチョコはハートの形。苺もそれに合わせて切ったものをコーティングしているようだ。
「ハートのチョコだなんて…愛が有るわねぇ。」
「すっごく羨ましいですぅ〜。」
そういうことを言われると、何だか照れくさい。
だから、ティエリアに何て言っておこうか迷ってしまう。
「ティエリア…チョコ、ありがとう…」
『ああ…気に入ってくれたか?』
「嬉しいけれど…ちょっと、照れくさかった…」
『そうか… 僕は、君のことを思っているからな…』
つい、頬が緩んでしまった。
今度会うときには、たくさん抱きしめてもらうことにしよう。
ホログラムの世界から愛をこめて
(いい笑顔をしている…)
(…あなたも。)
ホワイトチョコに隠した愛を、君に。
13.03.17