お返しは愛で
バレンタインや誕生日はやけに気合の入ったケーキを貰ってしまった。
だから、お返しをしたいが…

「(あいつって甘いものあまり好きじゃないらしいしなぁ…)」

…だから、尚更悩む。

「(ん…デートに誘うってのも悪くないよな…)」

ドックに篭りきりになりがちだから、連れ出してやらないといけないような気がしてきた。
地上に降りる際の変装はスメラギさんに任せておけば良いだろう。

「おやっさん、ちょいとドックに篭りきりなお嬢様借りてっていいか?」
「おっ、デートでもするつもりか?」
「…刹那には申し訳ないがそういうことだ。 スメラギさんにも根回ししとかないとな…」

だが、彼女はかなり生真面目だ。ミッション以外では外に出たがらないだろう。それ故の根回しだ。
まぁ、ミッションといっても…俺としては彼女にお返しのプレゼントを自ら選んでもらうのがそれなのだが。

「…ミッション?」
「そうよ、詳しいことは地上に降りた際にロックオンに聞いてちょうだい。」
「地上…? 了解…」

…どうやら気付いていないらしい。それには後で腹を抱えて笑ったが。
スメラギさんからの指示で先に地上に降りて、待機することに。

「(さて、どう来るか…)」

「ライル…」
「お、来たか…」

茶色のインナーの翠のワンピース。コートは、白の少しふんわりとしたデザインのもの。
髪は茶色のウィッグだが、似たような長さのものを結った上には帽子がちょこんと乗っていた。

「…そういうのも似合うな。」

さて、どうやって誤魔化すか…と考える前に手を取った。

「えっ…?」
「恋人らしくしてればバレないって。」
「うん…」

ダブリンの街を歩きながら、ふとさり気なく聞いた。

「そういえばさ、バレンタインのお返し…欲しいものとかってあるか?」
「…そっか、もうひと月経つんだっけ…」

ようやく気付いたように見える。

「…それで、ここまでしてデートに誘いたかったのね。」
「あ…バレてた?」
「バレたっていうより…ミレイナが絶対デートだって言ってたから…」
「…まあ、そういう事だ。 デートといこうぜ?」
「えぇ…」

少し照れながら頷いていた。

「で、欲しいもの、か… 思いつかない…」

彼女は物よりも気持ちの方が嬉しいのだろう。
それなら…

「え…?」

着いたのはアクセサリーの店。

「…何を探すの?」

正直に言えば、俺も指輪とか付けるガラではないが…

「指輪…?」
「クラダリングって言ってな、俺もよくは知らないけど700年くらい継がれてる伝統工芸品なんだと。」

その後、彼女が店員にクラダリングの事を聞いていた。彼女はそういったものに興味を持つらしいので気に召しているようだ。

「(まぁ、いずれ指輪のサイズも必要になるだろうしな?)」

…と、俺は邪な事も考えていたのは内緒にしていた。

「…こういうの、いいね…」

車の助手席で右の中指に正位置で嵌った指輪を見つめながら、そう言っていた。

「…でも、ミレイナたちにどう説明したらいいか…」
「お守りって言っておけばいいんじゃないか?」

一応お守りであることは事実だし、と付け足しておいた。
それに対して『そうだね』と言っている彼女に、軽いキスを。

「あ……」

…彼女の照れた顔が可愛くて、俺はせめて車の中では外そうと思っていたサングラスを外すことが出来なかったのだった。

(その顔、反則…可愛すぎるから…)

お返しは愛でという主張の為に。

(※注釈:クラダリングの付け方に関しては諸説あるので、文献によって差異があります。今回は左手薬指正位置=既婚、右手中指に正位置=恋人あり、右手中指に逆位置=恋人募集中というものを採用しております。)

13.03.10
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