ロマンティック・ラブ・イデオロギー

君に触れられないのがもどかしいが、来るべき対話の時が来るまで眠りにつくことにした。


「あの子の事はいいのかい?」

「…何の事だ。」


無機質な文字の羅列の世界。ここはヴェーダの中だ。
僕の横には同じ塩基配列のリジェネが居る。


「ほら、あの子。白髪にオッドアイの――」

「…スピカか。」


スピカ・レティクール。

混じりけの無い新雪のような白髪に、金と蒼のオッドアイ。

華奢な身体は、抱けば僕の中にちょうど良く収まってしまう。


「あの子、寂しがっているんじゃない?」

「…彼女はこんな事で折れない。」


こんな別離よりも、戦場で受けた傷の方が重いと言っていた。
それほどまでに我慢強いが、それ以外にはあまりにも脆い。


「…それを僕は一番知っている。」

「ふぅん… でも僕には理解できないよ。君が人間の女性に惚れるなんてね…」


…僕だってそんなこと予想だにしていなかった。

…あの頃の君は、予想する事も知らなかっただろう。


「(スピカ…君はあの頃より、ずっと大人に近付いた… 強く、優しく…そして、美しくなった…)」


君が隣で眠る姿を思い出して、少しにやりとしてしまった。


「…ティエリア、にやにやしてる。あの子の事考えてたのかい?」

「…思い出してしまっただけだ。」


触れられないのだから、思い出すしかない…君と作り上げた、愛おしい記憶を。

もし君が忘れてしまったら、何度だって思い出させてみせる。


「…君って、人間風情だよね。」

「…君までリボンズみたいなことを言うな…」

「はは、冗談だよ…」


…そんな事より今考えてしまうのは、今度君に会う時はいつだろうかということ。

それは、来るべき対話の時でもある。


「(また会える時には、君はもう大人になっているんだろうな…どんな君を見せてくれるのか、楽しみだ…)」


…こんなにも深く、遠く離れている筈なのに、君の事をとても近くに感じる。
優しくて、温かくて、それを愛おしく感じさせる。


「やれやれ…ぞっこんってやつかい?」

「…気に入った相手に愛着を持って何が悪い。」

「…うっわ、"ロマンティック・ラブ・イデオロギー"だね、それ。」


…彼が何を言いたいのかさっぱり分からない。


「…何だそれは。」

「純愛主義ってことさ。」


…間違ってはいない。僕達は互いに愛着だけを持っているのだから。


『…大好き。』


遠くで君のつぶやきが聞こえた気がした。それは、僕の記憶から出てきたものかもしれない。
でも君の事は、僕も愛おしく感じている。


「(ああ…僕もだ、スピカ…)」


僕に恋心をくれたのは、紛う事無く君だ。
君の無自覚な優しさが、心に愛を芽生えさせたのかもしれない。
だから、今度君に会える時にはその気持ちに愛で返すことにしよう。


「(…最終的には、何を考えていても君に辿り着く。)」


どんな事を話していても、君の事ばかり考えてしまう。

こんな僕は、愚かだろうか?そうだとしても、僕は君を想い続けるだろう。

そうして僕は、君の夢ばかり見ている――

(…あのさティエリア、君の独り言筒抜けなの分かってる?)

君への愛は、他人すらも入り込めない。

12.12.07


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