…今年も冬が来た。俺にとってはもう30回目だが。
こうして二人でゆっくりと過ごすのは初めてだった。
「ねぇ、ニール。」
優しくて、くすぐったくて、温かい。こんな感覚は何年振りなのだろうか。
「…私ね、思うんだ。こんなにも満たされた日々が、手に届くなんて思わなかったって。」
…何もかもを失って、ソレスタルビーイングの一員として尽力して…それ以外に、何が有っただろうかと思うくらいに空っぽだった。
でも、こうして大人になった時には普通のレディとして満たされた日々を生きている。
「…まさか、かなり一途だとは思わなかったけどな。」
「あなたにしか恋した事、なかったから…」
そう、10歳年下なのにも関わらずこうして側に居る。
悲惨な境遇の中に居たせいか世間知らずな面もあって、皮肉にも彼女には世間体というものが通じない。
「…それに、歳の差を気にするのが理解出来ないよ。イアンさんとリンダさんだって…」
…それは犯罪の域だろ、なんて言ってみる。
「え…そうかな…」
「そうだ、ワイン飲もうぜ?せっかく今年20歳になったんだからさ。」
「う、うん…」
あまり強くないのは分かっているけれど…せっかくのクリスマスなんだから。
そんな事を考えつつ、ワインを開けた。
「(父さん、母さん、エイミー…今、隣には守りたいと思う人が居るんだ…)」
…何故か、昔のクリスマスの事を思い出した。
「どうかしたの?」
「ああ、いや…昔の事を思い出しただけだ。」
「昔かぁ…」
月の金色(こんじき)と、夜の蒼を思わせるオッドアイが憂いに細くなった。
「ああ、悪ぃ…辛い事思い出させちまったな…」
「良いの。でも…思い出せる思い出があるのは、良い事だよ。空っぽよりも、ずっとマシ。」
憂いの笑顔を浮かべる彼女の肩をそっと抱き寄せた。
…彼女の虚に対するその強さは、強すぎて哀しくなる。
「初めて会ってから8年経ったって言うのにな…」
…笑って許してくれるようになっても、未だに触れてしまう彼女の心の傷。
「…過去に手は届かないけれど、未来には届くよ。」
彼女が笑顔で言うと、いたたまれなくなる。
…過去なんて、どうあがいても取り戻せる代物ではない。
「そうだな…」
彼女はそうだよ、なんて返してワインを一口飲んでいた。
「んぅ…」
彼女は酔うと眠くなっていく。そこまで度の強いワインじゃないのに。
でも、隣でうとうとしている姿は可愛い。
「…ねぇ、来年も…隣に居てね…私も、隣に居るから…」
ほんのりと頬を染めて、笑顔で言っていた。
「ああ…もちろんだとも。」
あまりにも単純で可愛い約束に、ワイングラスを置いて冬の寒さを忘れてしまうくらいの熱いキスをした。
「えへ…嬉しい…むにゃ…」
「(…あれ、一杯しか飲んでないよな?)」
…それから後片付けをして、眠っている彼女をベッドに運んだ。
「むにゃ…」
「(酒弱いにも程が有るな…)」
苦笑いしつつ俺も同じベッドに入って、彼女の髪を撫でた。
そしてズボンのポケットから、渡し損ねていたプレゼントを出して枕元に置いた。
[Tá mé in aice le i bhfad níos. ó Neil]…と書いた紙を添えて。
朝になったら、どんな顔するだろうな…そんな事を考えながら眠る彼女の額にキスをして、横になった。
Reach those in their hands
(…来年もと言わず、ずっと隣に居てくれよ。)
愛で冬の寒さがどこかに行ってしまう。不可思議だけど、心地いい。
EXでニールif。主は酒に激弱。(手紙の訳:アイルランド語でずっと側に居るよ)
(展示期間:12.5.10-12.10.14)