冬のアイルランドで、俺達は買い出しに来た。
「もう、ライルったらお酒に煙草って…」
隣で彼女が呆れていた。
「…そういえば、もうそろそろクリスマスだっけ。」
「ん、ああ。そうだったな…」
町並みを見て思い出した。俺はもうそんな事で浮かれる歳じゃないけれど、ミレイナあたりはきっと楽しみにしてそうだ。
「…クリスマスって、家族と過ごす習慣だって聞いてるけど…」
「家族、ねぇ…」
父さんと母さん、そして妹のエイミーは10年以上前に居なくなった。
その敵を取ろうとした兄さんも、4年も前に居なくなってしまった。
「家族か…いいな…」
「…居ないのか?」
家族を失ったりしたんだろう、俺はそんな推測をしていたが…
「居ない…もとい、知らないんだ。どんな人なのかも…」
予想外の回答で悪い事を聞いてしまった気分になった。
「…悪かった。」
「ううん…良いんだ。悲しんでなんていられないし…」
…まさか、その哀しみを戦いという現実で紛らわしながら生きてきたのだろうか。
「(もし、戦いから解放されたとき…お前に残るものは何だ?)」
…その疑問が頭から離れない。
それを訊ねようとしたが、心理的に追いつめているようにも思えてきたので止めた。
「…今ではどんなに手を伸ばしても届かないものだと思っている。」
意外とシビアな奴だ。だが、そのシビアさが尚更哀愁を誘う。
一番荒んでいた頃には、愛なんて幻想にしか見えないなんて言ってたっけか。
「でも、こうして手に届くものもあるだろ?」
「…!」
そう言って手を握っていた。
「ら、ライル…?」
「お前は独りぼっちじゃないんだ…」
…俺よりも、ずっとマシになってきている。
空っぽの俺よりも、ずっとずっと…
「そうだね…私には、仲間が居て…今こうして隣にはあなたが居てくれている…」
『もう家族に手は届きはしないけれど、あなたが、仲間が居るから悲しくはならないのかも。』
そう付け足して言った。
「気付かせてくれてありがとう…」
「礼を言われるほどじゃねぇって。」
…そう言いつつ、キスしたい衝動を抑えつつふわふわな白髪を撫でた。
こんな10歳離れた相手に、堂々とキスなんて出来るかよ…なんて。
Reach those in their hand
(…お前がシャイな奴で良かった。)
(…何の事?)
…ついでに、鈍くて良かった。
(キスして欲しいなんて言う勇気が有る訳無いのは、分かっていた。)
(展示期間:12.5.10-12.10.14)