この無機質な場所のどこにも君は居ない。
ここにあるのは、ハロを解析して見つけた君との映像データだけだ。
…思えば、今まで見てきた君はとても不器用だった。
甘えるのも、何かを話すことも下手だった。
でも、今では辿々しく僕の名を呼ぶ声が懐かしく思える。
『ティエリア…』
君が通信を入れてくるとは珍しい。
「どうした…?」
『…お話がしたくて。でも一応皆には内緒にしているから、ちょっとだけ。』
「…それなら、個人端末でもいいだろう?」
『…それだと、いつまでもお話しちゃいそうだから…』
君は、依存してしまうのを恐れているのだろうか。だが、そんなことは考えなくていい。
「…スピカ、僕は何よりも君の声を聞きたいんだ…だから、話してほしい。」
だから思わず漏らしてしまった。
…過去のデータなんかではなく今ここにある君の鮮明な言葉を聞きたい。
「…君の声も、何もかもが好きだから、な…」
『もう…ティエリアってば… そんなこと言われたら…』
その気持ちを伝えた途端、君の目に涙が浮かんでいるのが見えた。
大人になって一人立ちしたいと願ったのは知っている。だが、一人では得られないものもある。
「スピカ… 僕のことは、好きか…?」
『え…?』
「…思いを閉じ込めたままでは、辛いだろう?」
それを教えてくれたのは、紛うこと無く君だ。
『えぇ… 好きよ… すき、だいすき…』
その君はとても稚拙に言葉を唱える。
『駄目…やっぱり、会いたいよ…』
ぽたりぽたりと涙を落とす。心に痛みを抱えている。
その痛みは、僕の心をじわりと締め付ける。
「スピカ…」
どうか、そんな温もりの伝わらない場所で泣かないでくれ。
泣くなら、僕の腕の中で泣いてほしい。
「…僕も、君に会いたい。 だが、まだやるべきことが有るんだ…それだけは、わかってくれ…」
僕にだって君に触れられないもどかしさが有る。
それでもこうして声を聞いているだけで、君が生きていてくれているんだと実感できる。
いつか、君のために生きることが出来るだろうか。
それが出来るなら、僕はどれほど幸せな気持ちになれるのだろうか。
その答えを求めながら、僕はまた眠りにつくのだった。
By calling in the voice
(…まだ僕は、幸せには手が届かないようだ…)
君が不安なのが何よりも不安でしょうがない。 なのに手が届かない。 そのもどかしさに涙が溢れそうだった。
14.05.26