共有するということ

「ティエリアは、お誕生日いつなの…?」

夏に、彼女の誕生日を祝った。
彼女は僕の誕生日を祝いたいようだが、僕には誕生日などない。

「僕には誕生日など、存在しない…」
「でも、此処にあるということは…あなたにも、生まれた日があるはずなのに?」

君はなんて優しいんだ。でも、その優しさは…少し複雑だ。

そもそも、僕に思いを寄せるなど奇特にもほどがあった。
何故、そこまで僕に拘るんだという疑問もあった。

「…スピカ…君の気持ちは分かる。だが…」

彼女は、悲しそうな顔をした。

「どうして…? 私、あなたが祝ってくれた時、すごく幸せを感じていたのに…」

…祝える誕生日がないのだから、そう答えた。

「そっか…ごめん… ちょっと、一人にして…」

そう言って、部屋を後にしてしまった。

「スピカ…すまない…」

そもそも、僕は人生を誰かと共有することを考えたことすら無かった。
故に、その小さな手を掴んで、引き止める事も出来なかった。もとい、今の僕にはそんな資格はなかった。

「………」
「あら、ティエリア。」

その翌日、スメラギに会った。

「そんな浮かない顔なんてあなたらしくないわね。」
「…そう、見えるのか?」
「もしかして、昨日スピカを泣かしちゃったことを後悔してる?」

何故、それが分かったのか…腑に落ちない。

「な、何故それを…!?」
「あの子ったら、展望室で泣いてたのよ? 誕生日を祝ってあげられないのが悲しいって。」
「そうか…」
「とにかく、あの子に謝ってらっしゃい。 せっかく覚えた幸せを忘れるのは可哀想よ?」

だが、彼女に会いに行くための口実を作れない。
謝りに行く、というだけではどう言葉にしたらいいか分からなかったのだから。

「(スピカ…)」

…思い出してみれば、あの時の彼女はとても嬉しそうな顔をしていた。それは、仲間の存在の温かさを知った時の顔だった。
そんな彼女に今、悲しい顔をさせているのは不甲斐なく思えてきた。

思考している内に時間を見たら、19時だ。食堂に向かえば、彼女に会えるだろうか…そう考えて行くことにした。

「…!」

突然クラッカーの音がした。

「誕生日おめでとう、ティエリア…!」
「アーデさん、おめでとうですぅー!」

「何故だ…?」
「…スメラギさんが、ミッションで使っていたパスポートに書いてある誕生日を教えてくれたの。」

そういう事だったのか、と見落としていたことを認識させられた。

「だが、あれは…」
「でも…例え偽りのものでも、お祝い出来る日があるのは嬉しい事だよ。」

両手を握って笑顔で笑う君に、どうしようもなく涙腺が緩んでしまう。

「やれやれ、二人の世界が出来つつあるな。」

…そうロックオンからは苦笑いされてしまっている。

「二人が分かりあえている証拠だろう…」
「…にしたって、純情すぎんだろ。」

この夜は唐突でびっくりしたが、彼女が幸せを感じた理由が分かったような気がしていた。
その後、彼女に謝ろうと部屋に呼んだ。

「どうしたの?ティエリア…」
「スピカ… すまなかった…随分と悲しませてしまったようで…」

少しきょとんとしながら僕を見て、口を開いた。

「ううん、いいの… それより…ティエリア、あの…何か欲しいもの、ある…?」
「え…?」

そう言われてもなかなか思いつかなかった。
物じゃなくても良いのなら…これしかない。

「…明日一日、君のことを独り占めさせてくれないか。」
「…!」

抱きしめながら、耳元でそう言う。

「い…いいよ…? あなたが、そう言うなら…」
「ああ…ありがとう、スピカ…」

…少し日付は過ぎてしまったけれど、口付けを交わしてから僕はこれでいいのだと悟っていた。

(…まずは、二人で一緒に寝よう。)
(う、うんっ…って、えぇぇっ…!?)

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[after:二人だけのハッピーバースデー]
真っ暗な部屋。二人では少し狭いベッドの中で、僕らはこうして抱き合っている。

「…ねぇ、ティエリア。」
「どうした…?」
「お誕生日、おめでとう。」
「ああ…ありがとう。」

歳を取らないと分かっているはずなのに、君に言われるとどうしようもなくなってしまう。

「…君と一緒に歳を重ねられないのは、少しさみしいな…」

いつか、君は時間でも距離でも測れないほど遠くに行ってしまう。
そう考えると、人種の違いを痛感する。

「…もし僕がまたひとりになったら、誕生日を意識しなくなるんだろうな。」
「ティエリア…誕生日は、歳を取るだけじゃないんだよ。前の自分を振り返って、成長したところを見つける日でもあるんだって。」

「スピカ… ありがとう…」

…あなたはよく話してくれるようになったし、笑うようにもなった。
この頃は、優しくしてくれるし…こうして、一緒にいてくれる。
そういうことだって、立派な成長だと私は思う。あの人も、きっと見守ってくれているだろう。

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とてつもなく遅ればせながら、ティエ誕ネタ。
ティエは自分の誕生日とか興味ないだろうな、と思って。
タイトルと内容に関してはセバスチャン・ベッテルの「人生を誰かとシェアすることに興味は無い」(※うろ覚えですが大体こんな感じの発言。SNS関係の話だったかな)という発言からふと思いついて書いてしまいました。

14.01.21


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