単純なことにこそ幸せは宿る




―西暦2364年、アザディスタン。


空を見上げれば、ELSとの友好の証の花が咲いている。
この地上には一面に花畑が広がっていて、湖のほとりにはクアンタが膝を付いた状態で佇んでいる。
隣には君が居て、こんなにも綺麗な場所に居られることに嬉しそうにしている。

「二人で、こんなに綺麗な場所に居られるなんて…組織に居た頃は考えられなかったね。」
「そうだな… 俺も、此処に還ってきて良かったと思っている…」

君のことは気持ちの奥底にあったが、長い間離れ離れになっていたせいで叶えることが出来ていなかったことがある。

まず、俺は君を幸せにし足りないければ君の心に幸せを満たせていない。
それに、恋人らしいことも出来ていない。私的に地上で二人だけで過ごしたこともなければ、組織の中から出たことがなかった。

…君には、たくさん寂しい思いをさせてしまった。再会したばかりの時はずっと泣いていたし、『隣に居るだけで嬉しい』と言い出すようになっていた。
とてつもなく長い遅れを取り戻すためにはまだ時間がかかる。

「う、あ…」

髪を撫でれば、照れながらも嬉しそうな顔をしている。

「…こっちに来い。」

手招いて、歩み寄ってきたところを抱きしめてみる。

「温かいね…」
「ああ、とてもな。」

…君の反応を見ているとつい頬が緩んでしまう。
長い間会えなかった分、俺は飢えているのかもしれない。

「ねぇ、刹那。」
「どうした…?」
「…言葉が要らなくても、声が聞きたいときってあるよね。」
「ああ… そうだな…」

…今まで君は色々なことに気付かせてくれた。
今も変わらず、そういうことを言ってくれる。

「スピカ…」

君の名前を口にするだけなのに、何故か幸せを感じている。
名前を呼べば、反応してくれるからなのかもしれない。

「刹那…?どうしたの?」

逆に、君に名前を呼ばれることにも幸福を感じる。

「…俺は、今でも君がこうして一緒に居てくれることを嬉しく思っていたんだ…」
「…だって、あなただってちゃんと分かるもの。 それに…あなたが帰ってきたら、隣に居て守るって決めてたの。」
「そうか…だがもう、戦わなくていいんだ…」

そっと手を握りながら、諭すように告げた。
君は幼い頃から超兵として戦わされ、俺が居ない間はマイスターとして戦い続けた。俺よりも長く戦いを続けてきてしまった。

「戦いを続けてて、今のこの世界に居場所なんて無いんじゃないかとも思ってた…」
「自分に居場所が無いと言うのなら…俺の隣に居てくれ… そしてこの先の50年も幸せだと言えるようになろう…」
「ええ…約束よ。」

触れ合って、言葉を交わす。こんなにも単純な事に大きな幸せを感じる程、俺達は幸せに見放されていた。
今は柔らかくて優しくて温かい、そんな気持ちを感じている。

君はまた涙を流している。思えば、一人で泣けずにずっと溜め込んでいたかもしれない。
その哀しみは少しずつ吐き出していけるようにならなければいけない。

「…空が蒼いな。」
「えぇ…」

いつの日か、空の向こうのように距離では測れないほど遠い場所に行ってしまうがそれは覚悟の上だ。
最後のその瞬間まで、二人でこの空を見上げながら生きていく。

宿
(俺は、スピカのそばにいる。辛かったことも何もかも受け止めるために、あの日よりももっとずっと分かり合う為に。)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

[ex.花も愛も抱きしめて]
その日の夜、また二人で外に出た。
満月は、普段よりもずっと大きく見えている。

「今日は、特別月が綺麗ね。」
「ああ、そうだな…」
「でも外に出るにしても、どうして此処に…?」

ここには真っ白なドレスも綺麗な音を鳴らす鐘も無ければ、かつての仲間たちも居ない。
それでもここに誓いを立てる為に、花の冠を君の頭に乗せた。

「…ずっと隣に居ることを誓おう。もう、一人で泣かなくていいんだ…」

クアンタの前に、今まで君が使ってきたライフルを突き立てた。やがてこのライフルにも花が宿るだろう。
ライフルを下ろした代わりに、その細い腕には抱えきれない程の愛や幸せを抱きしめていてほしいという意味を込めて。

青白い光の下で少しずつ距離を詰め、口付けを交わした。
これからは二人で未来を共にするんだと思うと、とても感慨深いものが其処にはあった。

(あなたの為になら、白いドレス…着たいかな。)
(…! 俺のために、か…?)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

主ELS侵蝕ルートでエンディングっぽいの。
組織に入ってた頃に持っていたライフルを持っていたのは、返せる宛も無ければ捨てる場所が無かったからとでも。
数十年使ってなかったのでところどころ錆びてたりしますが。

私的なメタル刹那は、今まで見せなかった素直な優しさを出せるといいなと。

14.01.21


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