こころの種に芽生える感情
ダブルオーライザーとはぐれ、プトレマイオス2は地上に不時着。
そこは、驚くほど綺麗な山の中だった。

「はぁ…」
「よう、アリエス。お疲れか?」
「え、いや…違う…」

最近は、今までにあった事も考えてしまう。

「…ここまで色んな事が有ったと、考えていた。」
「ああ…色々あったな…」
「…私はこの頃…思い出しそうになることが有る…」

ずっと忘れていた事。思い出そうにも、思い出せなかった。
スメラギさんみたいに倒れはせずとも、心に深く刺さって抜けない程のこの痛み。
この刃のように鋭利な感情は何なんだ?私には理解も出来なければ求める術もない。

「…ほら、過去じゃなく未来の為に戦ってるんだろ?」
「わかってる… わかってるけど…!」

私は自分自身のことも分からない。
今、マイスターとしてこの組織に在る私だけが全て。あの時の私は捨てたのだ。

「…アリエス、もしかしてお前… 記憶が無いのか?」
「……えぇ。組織に来てからことしか…」
「…よく分からない奴だと思ってたけど…自分でも分かってないのか…」

頭をぽんっと撫でられた。

「しかし…分かった所で、どうにもならない。」
「おいおい…随分と後ろ向きだな…」
「例え自分の事が分かったとして、取り返せる物はある? それに取り戻す価値が有ると思う?」

…私なら、有るわけがないと答える。
ふと彼に目を遣ると、額に人差し指を立てられた。

「……お前さん、相当だな…」
「何が…?」
「そこまで考えるって事は、忘れてる記憶がよっぽど黒だって事だぞ… 俺だってそうさ…両親と妹を失って、気付いてみれば双子の兄まで居なくなって…」
「………」
「そんな若い内から黒いもん溜め込んでると将来、抜け出せなくなるぞ?」

…何故だか分からないが、悲しくなってきた。
そして、聞きたくもなった。

「…あなたは今、寂しい…?」
「…さあな。今はそんな事考える気にもならねぇ。 けどよ…」
「…何?」

人差し指を離したと思ったら、手を私の頭に乗せた。

「…それ、お前が言える事かよ。」
「え…」

…それは、私にも分からなかった。

「冷たいとか思ってたけど…意外とお人好しで、寂しがりなんだな。お前みたいな変わった女、初めてだ… というか、男を知らないだろ?」
「知らない…?それは、どういう意味?」
「あー…そっから? …つまり、そういうとこ見せて、異性がどう思うかとか…そういう事。」

彼はとてつもなく歯切れの悪い台詞を並べ立てていた。

「……意味もわからないし、私に必要あるのかしら。」
「…意味有るっつの。つーかそういうスキル無いと世渡り上手になれないぜ?」
「………」

どちらにしても私達はソレスタルビーイング、重罪人であることは変わらない。
それ故に、私は彼の言う感情を求めたりなどしない。そう思っていた筈なのに。

でも、今は… 撫でる手の心地さに、心が溶けていくようだった。
…何故か分からないけど、そういう事をされるのは嫌ではなかった。
強くなりたい。そして、戦う気持ちを揺るがさないが故に被った仮面。
彼の前では、素の自分が出てしまって、胸が苦しくなる。

「…可愛いやつ。」
「そ、そんなこと…!」
「ふっ… そんな強がることないだろ?」
「なっ…!?」

…あの頃の事を、思い出してしまっているのだろうか。
彼ではあの人の代わりにはなれないし、彼がそれを望まないだろう。そんなことは分かっている。

「…可愛い上に鈍いやつだな本当。」
「か、可愛くなんて…!」

そう拒絶するものの、『そんな顔で言っても説得力ねぇって』と頭を撫でながら返された。

「…どうしてなのかわからない… そういう事をされるのは、嫌ではない…なのに、どうしようもなく胸が苦しい…」
「本当に初心だなー、お前。それが恋って奴だよ。」
「恋…? …何かの病気だと、ずっと思っていた。」
「恋ってのは、誰かを無性に好きになることだ。 医者では治せないって意味では合ってるけどな。」

試しに、手を伸ばした。その手は僅かに彼の頬には触れられず、寸前で手首を掴まれてしまった。

「ん?何するつもりだったのかな…?」
「あ… いや…」
「それ…本当に? 実はこういう事…されたかったんじゃないの?」

彼は思考を読んでいたかのように、私の頬に右手を添えた。

「おー…顔真っ赤… って、暴れんなって…!」

私は照れくさくなって彼の左手を振りほどこうとしてしまった。
必死になっていたら、そのまま抑えられてしまった。

「あ……」

彼は壁に手を付いて、私を追い詰めていた。
壁を背にしていたせいで、逃げ場を失ってしまった。

「こんなんで目潤ませちゃって… 本当に可愛いやつだな…育て甲斐がある。」
「そ、育て甲斐…? んっ…っ…」

今まで誰にもされたこともなかった口付けをされた。

「…そういう事。」
「っ……!!」
「その気が有るなら、今夜…来てみるか?」

…よく分からないが、彼とじっくり話はしたかった。
だから、じっくり話す余裕が欲しいと言っておいた。

「ふぅん…まぁ、聞いてみたいことは山ほどあるしな…?」

…あまりの恥ずかしさに卒倒しそうになりながら、約束をした。
今は、隣に居るだけでいい。だが、急にされた口付けに私は膝の力が抜けてしまっていたのだった…

(大丈夫か…? 刺激、強すぎたか…?)

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[ex.おおらかさと世間知らずは紙一重?]
その夜…

「この歳の差、犯罪じゃないか…?」
「…歳の差…? 気にして何になるの…?」

二人で座るベッドの上。足下にはハロが2個転がっている。
仲が良いのかじゃれている。

「あーそれは倫理的にだな…っておい、言わせるなよ…」
「…私としては、そういうことを気にして何になるのか…」
「…でも…考えてみりゃ… 今…18、だっけか?」

若すぎる彼女を横目に、ふと尋問してみた。

「今度19歳になるけど…」
「ああ、それくらいなら…」

…俺の故郷の基準では既に成人しているが、10歳も年下と聞くとやはり背徳感は有る。
だが、彼女があまりにも大らかすぎるのか世間知らずすぎるのかわからないのか抵抗を感じていない。

でもあのおやっさんも相当な美人な嫁さん居るしな…と、考えていたら…

「…歳の差で思い出したから一応言っておくけど、イアンさんとリンダさん…25歳差。」
「おいおいマジかよ…!? じゃあ、お前の歳であの子産んでるって事に…」

…それを聞いて、10歳の差で悩んでいた俺が馬鹿だった。
アレルヤが犯罪だとかスメラギさんが冗談だとか言うのも納得出来る。

「(そりゃあ14の娘居たら疑われるよな…)」

と、内心納得した。だが、これはこれ。それはそれとして…

「…お前はもう少し甘えることとか覚えような。記憶のこととか、一人で背負ってくには重いだろ?」

そう抱きしめながら言った。彼女には、それがとてつもなく足りていないから。
それからさっきの無理やりなキスとは違う、優しいキスを。

(やっぱり…恥ずかしいよ…)
(直に慣れるさ。)

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はい、ライル壁ドン+ファーストキスネタです。結構前にメモ帳に溜めてたものを、加筆修正したものです。
主はニールはニール、ライルはライルと割りきって考えてます(本人曰く割りきらない考えは虚しいだけとのこと)。
自分より酷い経歴の彼女を諭すのは、年上故です。

(注釈:アイルランドは18歳で成人だそうです。)

13.12.30


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