陽のあたる部屋。真っ白なベッド。
本を読む手元には、丸まって眠る君がいた。
寝返りを打ち、僕の方を向いた。
その頬には、銀の雫。
「どうした…?泣いているのか…?」
起こさないように、密やかに君に囁く。
握ろうとした手の中には、手回し式のオルゴール。
こっそりと回せば、優しい音色がする。
「(…子守唄の代わりだ…)」
「んぅ…」
少しだけ、顔が穏やかになった。でも、依然頬に涙が伝ったままだ。
もう、読んでいた本の頁を忘れてしまうことなどどうでもよかった。
何よりも、君の頬を伝う涙の理由を知りたかったから。
「…何故泣いている…? ここには、僕が居るだろう…」
横になって、そっと君を腕に抱く。ここに居ると教えるように、手を握る。
僕が隣に居るというのに、まだ苦しみを感じている。
これは由々しき事態だ。一刻も早く苦しみを取り払わなくてはいけない。
「…スピカ…僕の声が、聞こえるか…?今、こうして君の隣に居る… そんな息の詰まる場所に居ないで、ここにおいで…いつまでもそんな所に居たら、苦しいだけだ…」
君は夢の中で迷っているのだろう。見つけ出して欲しいと願っているだろう…それ故の説得だ。
君が目を覚ましてくれたなら、僕の声が届いていた証明になる。
そして、君が僕を強く思ってくれている証明にもなる。
「…!! ん…う…ティエ、リア…?」
「…よかった…スピカ…」
「…あなたが…またいなくなる夢を見たの…」
泣きそうな顔で僕を見る。 僕は何度も君の元を離れてしまっていた。
それを思い出して夢を見てしまったのだろう。
「スピカ… 僕はもうどこにも行かない…」
「約束、だよ…?」
君がそう抱きついてくる。それが嬉しくて嬉しくて、抱きしめ返した。
…このままもう一度、今度は一緒に夢の世界に行くことにしよう。
それなら、悪い夢を見なくて済むだろう?
「…今度は、いい夢が見られるといいな…」
「…うん…」
一枚の毛布に包まって、絶妙なバランスで抱き合う。
とろけてしまいそうなくらい心が温かい。
うとうとしてきたら口付けを交わして、このまま意識までとろけて二人だけの夢の中へ。
「(…いっその事、次の朝までこうしていたいが… 一度目が醒めてしまいそうだな…)」
沈む西陽の眩しさで目が覚めた。
眩しさに目を伏せたが、幸福感が勝っていたのであまり気にはならなかった。
「う…」
…彼女も目を覚ました。
「ほら、スピカ…夕陽が綺麗だ。」
沈む夕日を眺めながら、起き上がった彼女を抱き寄せた。
「ええ…とても綺麗ね…」
…眠ったままでは見られなかった光景。
でも、しばらくすれば僕らはまた眠りに入ってしまうが。
「(寝ても覚めてもとは、こういうことか…)」
寝ても覚めても君とずっとこうしていたい。そう思ってしまうのは、愚かだろうか。
それでも、考える事を止める気などは無いが。
「今夜も…こうして一緒に寝よう。」
「うんっ…」
…眠っている時に見ている夢はいつか醒めてしまうけれど、僕達の幸福な夢は醒めたりなんてしない。これからも僕は君を見守ろう。
falling in melting mellow
(本音を言うなら…君が寂しくないように、な。)
ティエリアと添い寝。主が泣いているなら、夢の中にだって介入しちゃうのが彼です。
普段の武力介入とは違い、柔らかい口調で優しく、愛情たっぷり。他のマイスターから見たら「!?」ってなるでしょうけれど。
まあ、自分としてはでれっでれの彼が書けたと思います。
13.11.09