旧き車とこだわりと
北アイルランド某所。そこを一台の車が走り抜ける。

運転席には茶髪に碧眼の青年、助手席には少女が座っている。
少女は変装の為に青年と合わせた髪の色をして、左目を眼帯で隠していた。

「ロックオン…この車、周りのと違うね。」

ああ、これな。そう言って少女の方をちらりと見た。

「スピカにはまだ話してなかったっけ。旧時代のレプリカモデルなんだ。維持が大変だけど結構気に入ってるよ。」

ロックオンと呼ばれる青年はそう言って、上機嫌そうに話し始めた。

「…ランチア・ラリー037、旧時代に世界ラリー選手権に向けて開発されたものなのさ。」
「…"選手権"って事は、競技用なの…?」
「ああ、150台程度製造されたけどな。」
「そんなに…?」
「これがラリーで実際に走るには200台程度製造しなくちゃ認証が降りなかったんだ。」

スピカと呼ばれる少女はなるほど、と呟いた直後ふと気付いた。

「ん…旧時代ってことは、イオリアが生まれる前?」
「そうだ、これは1982年の車なんだ。多分、オービタルリングとかはその発想すらまだ無い頃だな。化石燃料も今みたいにまだ枯渇してない。」

この二人はミッション外ではこういう話を延々としたり、ハロと遊んだりとまるで兄妹みたいに過ごしている。
クルーによれば、少女が時々口ずさむアイルランドに伝わる童謡を教えたのも彼である。

「内装も全然いじってない。この時代だと、クラシックカーどころの騒ぎじゃないけどな。」
「そんなに、前なんだね…」

何せ3世紀と4半世紀も前なんだからな、と付け足して言った。

「…まあ、これに乗るのもこだわりを持ってるからな。」
「こだわり…?」
「言い換えれば個性だな。」

そう、彼はこうして彼女が生きていく上のアドバイスをしている。

「個性…」
「そ、個性。人間、何もかもが同じじゃつまらないからな。」

…彼女が少しでも戦いの事を忘れられるようにと気を遣ってのことだ。

「…スピカも、そういうこだわりを見つけられるといいな。」
「うん…」

少女はほんの少しだけ笑った。
彼女のその顔を彼は横目に見ただけだが、確かに笑っていると分かっていた。

「…それと、もっと笑えるようになるといいな。」

他のクルーの前では笑わないのを知っている、それ故の言葉だった。

(…見てたの?)
(ああ、ちゃんと見えてたさ。)

ニールと言ったら車に乗ってるシーンですよね、なんて思いつつ。
ニールは世間知らずの彼女に色々教えてるいいお兄ちゃんっぽくしてみました。

ちなみに実際にラリーで走っている動画はYoutubeなどで見られるので、そちらをご参照下さい。
ご存知の方も居るかもしれませんが、解説は下に書いておきました。

12.10.14

(用語解説 ※wikipediaより引用)
『ランチア・ラリー037』→ランチア・ラリーは、アバルトが開発を担当し、ランチアのブランドでフィアットグループが1982年の世界ラリー選手権に投入したラリーカーおよびグループB認証の為に生産した150台前後生産したロードカーの一般呼称名。1985年まで活躍した。(グループBは、自動車レースに使用する競技車両のカテゴリーの1つ。)
ニールの台詞『これがラリーで〜』の補足→グループBでは連続する12ヶ月に200台製造された車両がホモロゲーション(※認証の意)の対象になる為(=ホモロゲーションが無いと選手権に出場出来ない)



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