恋に大人し愛に幼し
…昼下がりの空の下。メメントモリ破壊ミッションの後に新型モビルアーマーの強襲を受けてトレミーはダブルオーライザーとはぐれ、地上に不時着していた。
ここは山の中。トレミーの修復の合間に、散歩を薦められて外に出てみた。

「綺麗…」

…あまりにも綺麗な風景で絵に描いてみたくなるが、トレミーの修復が優先だ。

「そうだな。」

ニールが一緒に居るのは一人だと危ないから、という理由だ。
ミレイナからは、『デートですか?』なんて言われてしまったが。

「本当はトレミーの修理に回りたかったんだけど…色々有りすぎたからこの機会に一休みしなさいって…」
「…本当は、一緒に散歩行きたかったくせに。」
「…それは認める。」

少し歩いた所で、互いの手が触れた。
その手は重なって指が絡まった。

「こっちは痛手を受けちまった…最悪、支部の力を借りる事になる。ああ、頼む…」

ライルがどこかと話をしているのを聞いてしまった。

「うぉっ…!? あ、兄さんにスピカか…スピカ、トレミーの修理はいいのか?」
「ミススメラギにこの機会だから一休みしろって言われたらしい。」

…肉体的にだけではない、精神的にもだ。

「…なるほど、そういうことな。確かに、あれが有ったからな…」

アロウズによるカタロン中東支部での虐殺。あれは私の心の傷を抉った挙げ句にトラウマを引き出しかけた。
思い出しかけたところで、意識を失っていたせいで忘れてしまったが。

俯いていると、ライルが立ち上がって髪をわしゃわしゃと撫でていた。

…その横でニールが一言。

「スピカ…忘れた事は考えても仕方ないだろ?」
「でも…」

あの時はあまりの恐怖心で卒倒し、二人から心配された事を覚えている。

「わぁっ…!?」
「今は嫌な事を忘れようぜ?」

気付けば抱き上げられていた。こんな事されたの、4年振りだ。

「やっぱり軽いな…」

これでもソレスタルビーイングに入ったばかりの時よりずっと身長は伸びた方だ。

「武力介入が始まってから、成長してるけどな…華奢すぎないか?」
「ああ、確かに華奢だな。」

降ろされた後、また撫でられた。

「………」
「…可愛い奴。」

少し散策しようぜ、と言われて歩き回ることにした。
しばらく歩いた所で…

「…!」

髪を結っていたリボンが解けた。

「あ、あれ…?」
「スピカ、」
「え?あっ…わ、私のリボン…!」

解けたというより、ライルに解かれてた。

「ははは…返して欲しかったら追いついてみな!」
「言われなくても…!」

気付けばライルとの追いかけっこになっていた。

「待って、ライル…!」
「ほらほら、もっとスピード上げてみな?」

こうなったら、本気を出してやろう。

「うぉっ、速っ!?」

驚いた隙に、ライルの手を掴んだ。

「追いついたから、返してくれる?」
「ああ…それにしても足速いなお前…」
「…何故なのかは私にも分からない。」

翠のリボンを結い直しながら、腑に落ちなさそうな顔をしていた。

…ニールは私達を見て笑っていた。

「はっはっはっ…まだまだ子供だなー、二人とも…」
「なっ…!兄さん!」
「おう、何だ?」

二人がじりじりと距離を詰めたと思ったら、ニールが逃げ出した。

「あ、おい、待てっ…!」
「逃げて追いかける所は子供だな、やっぱり!」

…何故だろう、笑いがこみ上げてくる。
駄目だ、堪える事が出来なくなってきた…

「ふふっ…ははっ…はははは…」

終には箍が外れて、笑いが止まらなくなってしまった。

「ははははは…!」

「お、おい…スピカが笑ってるぞ…」
「本当だ…」

二人の事が面白おかしく見えてしまったのかもしれない。

「何で、だろう…分からないけどっ…はははは…」
「こういうときこそフォトらないとな?」

その時、写真を撮ったと思われる音がした。

「あ…!」
「そのデータ、俺にもくれよ。」
「オーケー、送るからちょっと待ってな。」
「もう、二人とも…」

空を見上げようと芝生に寝転がった。
そういえば、ここの所宇宙に居たからこんな感覚は久しぶりだ。

「スピカは笑ったら可愛い。ようやく分かった。」
「ああ、可愛すぎるな。」

二人して何を話しているんだ…私は可愛さに自信なんてないのに…

「そうかな…」
「いいや、充分可愛いっての。」

…そう言ってくれるのは、嫌ではないと思う私が居た。

「スピカたち、あんなに仲良くしちゃって…」
「確かに、微笑ましいですね…」
「でも、『恋に大人し愛に幼し』ってやつね。」
「…何ですか?それ…」

…今日は大きな進歩があったと思う。
初めて声を出して笑った、それだけのことなのに。

(恋に大人し愛に幼し、だってよ…)
(…意味がよく分からない…)

――――――――――――――――――――――――――――――

「結局…恋に大人し愛に幼し、って何?」
「大人の恋をしているけれど愛情表現は幼いってことよ。」

――――――――――――――――――――――――――――――

タイトルに関してですが思いつきの造語です。発音的には「帯に短し襷に長し」的な感じで読んで下さい。
そんな訳でディランディ兄弟2期ifで一つやってみました。整備士ルート14話です。
身長は伸びても体重があまり変わらない(=胸があまり無い)彼女です。

あと、補足するとスピカのCB保護時期は2305年。身長は130cm台。
保護されたばかりの時にイアンさんにメカニックの手ほどきを受け、武力介入の時には整備の手伝いをしている設定です(1st→2ndの間に資格を取得してパワーアップしてる)

12.07.21


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -