ちいさなわがまま
本当に極稀だけど、わがままを言ってみたくなる。

それなのに…

「ん?どうしたスピカ?」
「………」

恥ずかしくてどうしても言えない。

「もしかして、具合でも悪いのか?」
「い、いや…それはない…」
「ったくー…心配させやがってー。でも、無理はするなよ。」

よしよし、って撫でられた。
でも、そうじゃない。

「えぇ…」

もっとさり気なくおねだり出来ないか整備をしながら考えていたら、時間が過ぎてしまった。

「うぅ…」

…さり気なく悔しい。私が意気地なしなのは前々からだが。

「スピカ、何やってんだ?」
「え…あ…」

ライルだ…また私に会いにきたのだろう。

「昼間っからずっと何悩んでるんだよ…」

彼に尋ねられたが、そんなに深刻な事ではない。
話すのに勇気が要るくらい恥ずかしい事である事は確かだが。

「ち、違うの…」
「俺に話してみろよ。俺達二人の仲だろ?」
「わ…笑わないでね?」

…おう、と返って来たから思い切って言う事にした。

「…どうしたらあなたに、さりげなくキスして欲しいって言えるかなって…」

彼はくすっと笑った。

「ははははっ…ばっかだなお前…もっとストレートで良いんだよ…」
「わ、笑わないでって言ったのに…」
「お前な、それ笑うなって方が無茶だろ。可愛すぎて堪えきれなかったんだよ…」

そっと頭を撫でると、彼は私と向き合った。

「…難しく考えなくていいんだよ。お前が思うよりもずっと単純でいい。」
「単純…」

…そう言って、キスしてくれた。

「はう…」
「…可愛い。」

抱きしめられたかと思ったら、急に手を引かれた。

「ほら、来いよ…」
「え、うん…」

ずっと言えなかった反動なのか、嫌ではなかった。

「しっかし…何でそんな単純な事で悩むかな、お前は…」
「何故だろう…」
「照れ屋なんだからよ…」

前髪を激しく撫でられたものだから、乱れてしまった。

「…でもそういう所、もっと見ていたいな。」
「え…?」

それは何故?と聞いてみたくなった。

「そりゃあ、恋人だからに決まってるだろ?」

答えになってないよ、と言いそうになったけれど、それはあまりにも明確すぎる答えだと後で気付いた。

「ライル…」

抱きついてしまった。

「…良いのかスピカ?歳離れてるのに。」
「…何を今更、私は世間体に囚われないの。どんな要素が有ったとしても最後に残るのは人間の本質だし。」

それに、イアンさんだってリンダさんと25歳差だよ、なんて茶化してみる。

「…サンキュ。」

今度は頬にキスされた。

「でもよ、スピカの隣で一緒に寝てたら流石に疑われるか…俺が。」

せっかくキスして欲しいと言えたのだから、ちょっとだけわがまま言ってみよう。

「たまには、良いと思うけれどな。一緒に寝るのは。」
「よっし、今日だけな。皆には内緒だからな?」
「うん。でも、変な事…しないでね…」
「…そもそも手出したら倫理的にマズいだろ。」

…そういえばそうだった。

その後、二人でベッドに入ったはいいものの、ここ最近ろくに寝ていなかったためすぐに寝付いてしまった。

(んー…)
(あ…おい…寝付くの早すぎるだろ…)

…でも、お前だって頑張ってるんだもんな。

整備士になったスピカと、ライルの話。
整備から研究まで頑張り過ぎが祟って睡眠時間削れてます(誰かに指摘されないと基本的に止まらない人なので)
前に別のジャンルで書こうとしていたものを00用にサルベージしたものです。小さなわがまま一つに勇気が出なくて難しく考えてしまう彼女の話である事は共通です。

12.04.30


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