媚薬温泉


「どうもありがとうございました、なんてお礼を申しあげたら良いか」
「いえ、当たり前の事をしただけですよ。では、私はこれで」
「本当にありがとうございました」

満面の笑みを浮かべ、女性は嬉しそうに頭を下げる。
その笑顔が見れただけで十分だと、ヒロインは思った。

「さあ、次の街に行きましょうか」

ヒロインはそう言い、数日過ごした町を後にし、旅道を歩き始める。
ヒロインは僧侶、治癒魔法を扱う者であった。
魔物が徘徊するこの世界、人々の病気、怪我などを治せる僧侶は居なくてはならない存在。
そんな僧侶の一人であるヒロインは、旅をしながら町や村に寄り、病気や怪我などで苦しむ人々を助けていた。
この町で病気で苦しんでいた女性を助け、ヒロインは新たな町を目指し、足を急がせるのであった。



「ふう、ここに宿屋があって良かった」

旅の途中、ヒロインは一軒の宿屋を訪れた。
中は広く、同じ旅をする旅人達で賑わっていた。
ヒロインも旅慣れはしていたが、魔物との戦いは治癒魔法を使うより体力を消耗する。
こういう旅の途中にある宿やお店などは、旅人にとって欠かせないものであった。

「知ってるか?ここから北にある町に温泉があるんだけどよ、その温泉に入ると病みつきになって、なかなか出られないらしいぜ」
「なんだそれ、気持ち良すぎて入りっぱなしになっちまうって事か?」
「ああ。だから今はあの町は大勢の旅人が居座ってるらしい」
「…なんか曰く付きって感じだな、そこはスルーしようぜ」
「だな」

ロビーの椅子に腰掛けている二人の男性の旅人の話が、ヒロインの耳に入ってくる。

(温泉って、気持ち良いのが普通よね?入りっぱなしになるのも仕方ないと思うけど…)

ヒロインはそう考えながら、次の目的地はその町にしようと、心に決めていた。



「ギャァ!」

ヒロインの槍を受けて、魔物は倒れ姿を消していく。

「はあ…幾ら倒しても直ぐに現れるんだから」

上がった息を整えながら、ヒロインは愚痴をこぼす。
倒しても倒しても直ぐにまた現れ、行く道を塞ぐのだから、ため息1つこぼしたくもなる。

「ギギ…」
「ま、また…」

前方から上がる魔物の声に、ヒロインはうんざりとした。
槍を構え、前方を見据えているとー。

「ギシャーッ!」
「!?」

自分の予想していなかった背後から、魔物は現れていた。
今から向き直っても間に合わないと思ったが、出来るだけ早くヒロインは振り向いた。

バシュッ!

「ギィヤァーッ!!」
「え…」

振り向くと、魔物は悲鳴を上げそのまま倒れていた。
一瞬の出来事に、ヒロインは何が起こったのか理解出来ずにいた。

「…」

すると、銀色の髪、青い服に身み長い剣を持った青年が、魔物が倒れた方を見据えていた。

(うわ…かっこいい…)

銀と青が似合う美青年に、ヒロインは見惚れそうになるが、彼が彼女に背を向け歩き始めたので、慌ててその背に声を掛ける。

「あ、あの…!助けて下さってありがとうございます!」

彼に助けられた事は事実であった、彼がいなければ完全に怪我を負っていただろう。
ヒロインの言葉を聞き、青年は足を止めていたが、再び歩き始めていた。

「魔物を倒しただけだ。…礼など必要ない」
「あ…」

青年は背を向けたままそう言うと、足早に去ってしまった。

「クールで素敵…あの方は何処に行くのかしら…」

後を追おうとも考えたが、ヒロインの目的地は既に決まっていた。

「名残惜しいけど…仕方ないわよね」

彼もまた自分と同じ旅人だろう、いつかまた会えるかもしれない。
彼を追う事より、ヒロインは昨夜聞いた温泉の謎を解く方が先決であったー。




「…凄い独特な臭いね…」

話に聞いていた街は、直ぐに見つける事が出来た。
温泉独特の硫黄の臭いは、街の外までその強烈さを漂わせていたので、迷う事なくヒロインは辿り着いていた。

「はあー極楽…何にもしたくねえや…」
「身体が浮いてるみたい…」

ヒロインと通りすがったカップルは、上気した頬を浮かべながら歩いて行った。
その足取りはフラフラとしており、危なっかしいものであった。

「あの2人は温泉に入ったのかしら…」

カップルを見送りながら、ヒロインは呟く。
実際、街に店は沢山あるが、どの店の店員も皆心ここに在らずという感じで、ぼーっとしているような無気力状態でいた。
ヒロインの治癒魔法で治せるレベルでは、見た限りでは無理そうな状態であった。

「全く…みんな困ったもんだよ」

そんな中、1人の女性が無気力な彼らを見て溜息を吐きながら呟いていた。

「すみません、私は旅の僧侶なのですが…皆さんどうしてこう無気力な状態になっているんでしょうか?」
「そりゃあね、あの温泉に入ってからなんだよ」

どうやら彼女は正気のようで、ヒロインの問いにしっかりと答えていた。

「前までは普通の温泉だったのに、ある日突然入った人達がみんなおかしくなっちまったんだ…。全く、このままじゃこの街も終わりだよ…」

女性はそう言いながら、向こうへと歩いて行ってしまった。

「普通の温泉が突然そんな風になるなんて。…これはきっと誰かの仕業だわ。でも、もっと情報が必要だわ」

情報が少なすぎる為、ヒロインは更に得ようと酒場へと向かう。

「いらっしゃい」

酒場のカウンターにいるマスターが、入ってきたヒロインに笑顔で言う。
カウンターに座る複数の男性や女性は、皆ドロンとした表情を浮かべていた。

「あー…気分良いなぁ…」
「何にもしたくないわ…このままここにいようかしら…」

この酒場にいる人々も、どうやら温泉の虜と化したらしい。

「お姉さん、旅のもんかい?話題の温泉には入ったかい?」

ヒロインがカウンターに座ると、マスターはそう聞きながらグラスにカクテルを注ぐ。
鮮やかな、赤色のカクテルであった。

「ええ、私は旅の僧侶です。まだ入ってはいないんですが、入るとどういう効果があるんですか?」
「いやぁ、兎に角気分が良くなるんだよ。力が抜けるというか、ストレスが一切なくなるというか。兎に角、病み付きになること間違いなしだよ」

マスターも、先程の女性と同じ様にしっかりとした口調で答えていた。
が、何やら異様な雰囲気を漂わせていた。

「ささ、どうぞ。当店自慢のカクテルです」

鮮やかな赤色のカクテルが入ったグラスをヒロインの目の前に置き、マスターはニヤリと笑った。

「ど、どうも…」

頼んでもいないのに出してくるなんてと、ヒロインはやはり怪しさを感じずにはいられなかった。
が、毒味も兼ねてと、ヒロインはグラスを取り口へと寄せていく。

「止めろ」
「えっ」

背後から低い声が上がったかと思ったら、ヒロインのグラスを持った腕は、その声の主に掴まれていた。
そして、グラスを取るとそのままマスターへと突き返していた。

「これ、代わりにあんたが飲めよ」

そう言ったのは、先程ヒロインを魔物から助けてくれた美青年であった。

「い、いえ私は毎日飲んでるんで」
「…」

急に慌てふためてくマスターに、青年はギロリと鋭い瞳を向ける。
そして、そのままヒロインの腕を掴んだまま彼女をカウンターの椅子から立ち上がらせる。

「…行くぞ」
「え、ちょ、ちょっと…」

青年の強い力に引っ張られながら、ヒロインはそのまま彼と共に酒場を後にしていた。

「あの…」

酒場から出た青年は、温泉のある街の奥を厳しい瞳で見据えていた。
青年はヒロインに向き直ると、掴んでいた手を離した。

「あのカクテル、絶対飲むな」
「え…」

ヒロインが驚きの表情を浮かべても、青年は表情を変えない。

「あのカクテルは、温泉と同じやばい成分が入ってる。絶対飲むな。…温泉にも絶対入るな」

切れ長の瞳が、真っ直ぐヒロインを捉えてそう言った。

「あ…は、はい。分かりました…」

口をポカンとさせたまま、ヒロインはコクンと頷く。

「…」

ヒロインが返事をしたのを聞くと、青年はそのままクルリと踵を返し再び去ってしまった。

「ま、待って下さい!」

ヒロインが慌てて引き止めても、青年の姿はどこにも無かった。

「また助けて貰っちゃった…。でも、あの人もここに来てたんだ。名前も知らないし…」

2度も助けてくれた謎の美青年に、ヒロインはすっかり心を奪われていた。

「また会えるといいな。…あの人、温泉とあのカクテルは同じものが入ってるって…。だから酒場にいた人達もみんな無気力になっていたのね…」

自分でそう呟き、ヒロインはやはりあの酒場のマスターが怪しいと睨んだ、が、証拠など何もない。
それに、何の計画も立てず行動するのは、余りにも危険であった。

「やっぱり、もう少し下調べしないと…」

もうすぐ日が暮れてしまう事を告げる様に、日の光が赤色へと染まっている。
ヒロインは、自分の治癒の力で無気力の人達を治せないかと考えた。
そして、横になって倒れている女性へと、ヒロインは歩み寄る。

「大丈夫ですか?」
「うーん…何にもしたくないわぁ…」

如何にも無気力、という状態であった。
ヒロインは彼女の額に手を当てがい、目を瞑る。

「…はっ!」

ヒロインはそこで目を開き、力を解放させる。

「…」

女性は黙ったまま、目を瞑っていた。

「…やっぱり駄目なんだ…」

女性は、そのまま寝入ってしまっていた。
ヒロインの治癒魔法が効かない事を決定付けていた。

「これはもう、この無気力になる原因を探るしかないわ」

自分の力で駄目なのなら、その原因を突き止め解決するしかない。
ヒロインは立ち上がり、湯気が立ち込める、奥にある石の建物を見やる。

「行ってみよう」

原因の根元である温泉へと、ヒロインは向かうのであった。





「はーい、温泉に入る方はこちらへどうぞー」

温泉の建物の前まで来ると、より一層人が多く集まっていた。

「俺入る!もう止められねぇよー」
「私もーずっとこの街にいて、温泉入ってるんだー」

多くの男女が、温泉に入ろうと列をなしていた。

「これじゃ情報を聞ける所じゃないわね…」

これだけ人でごった返していれば、話を聞くどころではない。
ヒロインは一度この場を離れようと、踵を返す。

「はぁーい、お姉さんも此方からどうぞー」
「へっ?」

気がつくと、甲高い声を上げているバニーガールの女性が、目の前で満面の笑みを浮かべていた。

「一度入ったら病みつきの温泉、是非旅の疲れを癒して下さいね!」
「あ、あの、私入るつもりで来たわけじゃ…」
「そんなこと言わずにーさ、どうぞー!」

バニーガールの女性にほとんど無理矢理押され、ヒロインは温泉のある石の建物の中へと入っていってしまった。

「もう、何なのよ…」

ヒロインは建物の中を見渡しながら呟く。
男女別の更衣室があり、人々はそれぞれ中へと入っていく。

「…元を調べなければ、答えは見つかりっこない」

入っていく人々を見ながら、ヒロインは呟く。

『温泉にも絶対入るな』

あの美青年の言葉が、脳裏に響く。
が、この温泉の謎を突き止めたいという好奇心が、彼の忠告よりも強く出てしまっていた。

「…ごめんなさい。私…行ってきます」

名前も知らない彼に謝罪し、ヒロインは女性更衣室の中へと入っていった。

「あれ?誰もいない…」

先程まで沢山の女性が入っていったのに、誰の姿も見えない。
みんな一目散に入ってしまったのか、仕方なくヒロインは服を脱いでいく。

「絶対、原因突き止めてみせるわ…!」

ヒロインは服を全て脱ぎ、ぐっと拳を握り締める。
そして、タオルを取り前を隠しながら温泉への扉を開く。

「うわ、凄い湯気っ」

温泉の湯気が白く立ち込め、周囲は霧の様な状態であった。
手探りでゆっくり霧の湯気の中を歩いて行くと、何とか温泉の淵の所まで歩く事が出来ていた。
ヒロインは一旦膝をつくと、湯気の中に指を入れる。

「…別に普通か…」

指を入れても、特に何も起きらない。
お湯の温度も、適度に気持ちの良い温度であり、色は少し黄色がかっている様であった。
ヒロインは決意を決め、片足をそっと入れてみる。

「…よし」

特に何も起こらず、もう片方の足も入れ、ゆっくりと座っていく。
その途端、温泉特有の心地良さがヒロインの全身を包んでいく。

「気持ち良い…普通のお風呂と全然違う…」

お風呂では味わえない心地良さに、ヒロインは本来の目的を忘れそうになっていた。
が、こうして浸かっていても、特に何も変わりはない。

「どうして無気力になるんだろう…普通の温泉だと思うけど…」

お湯の中も湯気が立ち込め、ヒロインが入る前に入った人達の姿はまるで見えない。
ヒロインは目を瞑り、温泉の心地よさを堪能しようとした。

「ああん!」
「へっ?!」

突然、女性の甲高い声が上がり、ヒロインは閉じた瞼を再び開ける。

「いいっ、ああんっ」

再び声が上がり、ヒロインは恐る恐るその声の方へとお湯の中を歩いて行く。
すると、前方の湯気の中に人影の様なものが現れていた。

「っ…!」

ヒロインは思わず、両手を口に当てていた。

「してぇ、もっとぉ…」
「マジあんたん中いいぜ…ッ、サイコウだ…」

先程入ったと思われる男女が繋がっており、それに対し悦びの声を上げていた。
ヒロインは見ていられないと、そのまま元の場所へと引き返していく。

「な、なんで男の人もいるの…?ここ混浴…?!」

目の前で見た光景が信じられず、ヒロインの頭は少々パニックの様な状態になっていた。

「初めまして。マジ…いいの?」
「うん。お願い…もうしたくてしたくて…」
「へ…」

ヒロインの近くには、いつの間にか別の男女がいた。
そして、短い会話が終わると直ぐ、甘い声が上がり始めていた。

「はあんっ、ああん」
「ッ…たまんねぇー…ッ」
「う、嘘でしょ…」

今の会話から推測すると、この男女は初対面でそういう事を始めた様だった。
そして、隣の方からも男女の声が上がり始め、途端に温泉は乱行の様な場所へと変化してしまっていた。

「…は、早く出よう、混浴なんて…気持ち悪い…っ」

ヒロインは頬を真っ赤にしてしまい、いてもたってもいられないと、温泉から上がろうと立ち上がる。

「あーっ、すっげぇ可愛い子発見」
「きゃあっ!」

明るい声が上がった瞬間、ヒロインはその人物に両肩を掴まれていた。

「お姉ちゃん初めましてー。あんたもしたくてここに来たんでしょ」

後ろを振り向くと、見るからに軽い感じの青年がヒロインに笑顔を浮かべていた。

「な…何言ってるんですか?!離して下さい!」

ヒロインが青年の手から逃れようと、勢いよく立ち上がろうとする。
が、青年の力は強く、全く動く事が出来ない。

「嫌がるなよお姉ちゃん。あんたもヤりたくてきてるんだから…」

青年はヒロインとの距離を縮め、肩からすっと手を前に回し、タオルの下にある、彼女の大きめの乳房をぎゅっと掴んでいた。

「!いやっ!!」

一瞬にして身体に鳥肌が立つ。
ヒロインは男の手を引き剥がしてやろうと男の両手を掴んで引っ張るが、ビクとも動かない。

「離して!」

声を大きく上げ、ヒロインは身体を動かす。
自分はこんな事をするためにここに来たんじゃないと、必死に身体を捻じるように動かし、男の手から逃れようとした。

「暴れんなよお姉ちゃん…」

男は、ヒロインが抵抗するのを逆に面白がり、耳元で囁く。
そして、掴んだ乳房をそのままぐにゅりと指を食い込ませ、揉み始めていた。

「!いやっ!!」

更に鳥肌が立つのを感じ、ヒロインは男の足を踏みつけてやろうと、足を動かそうとした。
が、そうさせる前に、男の動きが直ぐに違う動きへと変わっていた。

「!」

タオル一枚の下にある乳房の突起は、男に揉まれている影響で、その存在を彼に知らせる様にと、硬さを増し始めていた。
それに触らないでと、ヒロインは足をぐっと上げ男の足に踏みつけようとした。

「あっ…!」

ビクンと、ヒロインの足は振り上げられたまま男の足を踏む事なく力無く元の位置に戻っていた。
男の指先が、硬くなった突起の存在を見つけると、そのまま指の腹でタオルの上からなぞるように突起に触れていた。

「あんっ!」
「っ…可愛い声じゃん。乳首も硬いし…」

ヒロインの甘い声に男は一瞬で頬を真っ赤に染め、乳首から一端指を離すと、タオルに手をかけそのまま剥ぎ取ってしまった。

「!やあっ…!」

タオルを取り戻そうとするが、それは温泉の中へと落ちてしまい、そのまま流れていってしまった。
男の両手はすぐさま、露わになったヒロインの大きく形の良い乳房を掴むと、捏ねる様に乳房の形を変えながら揉みしだいていく。

「あっ…あぁ…ん。や…め、て…」

男の手首を掴み引き離そうとするが、その力は先程と違い弱くなっていた。
男の手が乳房を丹念に揉む度に、ビクンと身体が跳ねてしまう様な感覚に陥っていた。

(こんな、こんな知らない男性に触られているなんて、絶対嫌なのに…。私…なんで気持ち良いって思ってしまうの…?離れたいのに…身体が…言うこと聞かない…)

ヒロインの頭の中では、離れろという危険信号が鳴り響いていた。
が、男の手が動く度に溢れ出す快楽は、感じた事のない強いものであり、確実にヒロインの理性を奪っていた。

「はあ…マジたまんねぇ…こんな柔らかくておっきいおっぱい初めてだ…」

男はヒロインの頭の横から顔を出し、自分で彼女の乳房をぐにゅぐにゅと揉みしだきながら、その様子を伺いうっとりと言った。

「あ…あっ…。お願い…止、めて…離して…」

残っている理性を保ち、ヒロインは男の手首を掴んだまま言う。
が、やはり力が入る事が出来ず、男の手は乳房を丹念に揉み続けていた。
そして、男の指が乳房を揉むのを止めると、人差し指と中指の腹に、ピンッと硬く尖ってしまった乳首を当て、そのままなぞる様に上下に動かし始めた。

「あんっ!あっ、やぁ…ん、だめぇ…」

ピリッと、まるで電気が走るような快楽が乳首から伝わり、ヒロインは堪らず甘い声を上げてしまう。

「駄目じゃねぇよな…そんな良い声出してよ…」

男の興奮も一気に増しており、硬い乳首の根元を摘みくいくいっと捻ると、ヒロインは首を仰け反らせ声を上げていた。

「あぁ、んっ!あんっ、ああ、ん」
「っ…!」

理性がほぼなくなっていたヒロインの甘い声に、男はごくんと唾を飲み込むと、彼女の後ろから前へと回りこむ。

「お姉ちゃん…おっぱい食べて良いよな…?」

正面からヒロインの両乳房の根元を掴み、乳首を突き出させる。

「ああ…ん、ダ、メ…」

フルフルと首を横に振るが、ヒロインにとっても男にとっても、それは肯定を意味していた。

「っ…美味そうだ…っ」

男は乳房の根元を掴んだまま、顔を左の乳首へと近づけていく。
ヒロインは抵抗する事もなく、そのまま熱い唇が触れるのを待っていた。

「いてっ!」

いくら待っても熱い唇が乳首に触れる事はなく、代わりに男の悲鳴が上がっていた。

「てめ、何す…いてて!」

再び男の悲鳴が上がった所で、ヒロインは気だるそうにその様子を見つめる。

「…」

そこには、見覚えのある銀色の髪をした青い服の青年が立っていた。
男の腕を捻り上げ、鋭い瞳で睨んでいる。

「や、止めてくれ、は、離してくれ…」

腕の痛さに、男は情けない声で青年に訴えている。

「…こいつは俺の女だ。人のものに手を出すとは…分かっているんだろうな」

青年は顔色1つ変えず爆弾発言をしていたが、今のヒロインには何も響いていなかった。
ただ1つ、止められてしまった快楽をもっと味わいたい、それだけであった。
青年が腕を捻る力を強めると、男は再び悲鳴を上げる。

「いてぇ!わ、悪かった、あんたの女だなんて知らなかったから…」

男がお詫びの言葉を言うと、青年は腕を解放し、再び鋭く睨む。

「…失せろ」
「ひ、ひっ! す、すんません!」

青年の鋭いオーラに身を震わせ、男はさっさとその場を去り、温泉の湯気で見えなくなっていた。

「…」

男が行ってしまうと、青年はボーッとしているヒロインには歩み寄り、自分が着ているジャケットを脱ぎ、彼女の身体に羽織る。

「…行くぞ」
「…」

青年が言っても、ヒロインは何も答えない。
青年は仕方なく、彼女の手首を掴む。

「俺はあんたに言ったはずだ、この温泉に入るなと。…全く、何度も世話が焼けるぜ…」

青年はヒロインの手首を掴んだまま、彼女を歩かせようとするが、まるで動こうとはしない。

「…おい、ここから出るぞ。ここにいたら危ないからな」

青年がヒロインを見やると、彼女はやっと動く意思を見せた。

「…だ、いて…」
「?…ッ…?!」

青年は、思わず驚きの表情と声を上げていた。
ヒロインが青年に抱きつき、そのまま彼の唇にキスをしていた。

「お願い…抱いて…私に…触れて。私は…ヒロイン…」

ヒロインは青年を見つめそう呟くと、彼の首筋に舌を這わせていく。
いつものヒロインからでは考えられない、大胆な行動であった。

「 ヒロイン…か。俺はヒーローだ。あんたに、まだ名乗っていなかったな…」

この温泉が、媚薬効果のある温泉という事を突き止めていたヒーローは、ヒロインがこうなってしまった事を直ぐに理解した。

「ヒーロー…お願いヒーロー…貴方の事が好きなの…私を抱いて…」

理性が無くなってしまったヒロインだったが、彼に惹かれていた事は頭の中で覚えていた。
彼の首筋にちゅっ、ちゅっとキスを落としていると、その両肩を掴まれその行為を止めさせられた。

「…ヒロイン、本当はこんな所であんたに触れたくなかったが…」

ヒロインに羽織らせたジャケットを取り、側にある岩へと置くと、ヒーローは彼女の頬を撫でる。

「…俺も、あんたの事が好きだ…」
「ヒーロー…ん、ふ…」

ヒーローの唇がヒロインの唇に触れ、2人はキスをしていた。

「ヒーローも…私のこと…を…?」
「ああ…。だからこそ、あんたがカクテルを飲むのを止めた。あんたが温泉に入るのも分かったからな…だから追いかけてきた」

ヒーローはそう言い、ヒロインの頬を撫でながら首筋を伝い、そのまま露わになったままの彼女の大きな乳房に触れ、包み込んでいく。

「ぁ…」

触れられただけなのに、ヒロインはビクンと身体を震わせる。

「…あんな野郎があんたを触っていたと思うと…腹が立って仕方ないぜ。…消毒してやる」
「ああ…!ん、ふっ…」

ヒーローはそう低く呟くと、ヒロインを温泉の中にある岩に押し付け、今度は深く唇を奪う。
ヒーローの舌が入ると、ヒロインも自ら舌を絡ませ彼を求める。
細長く綺麗な指がヒロインの両乳房を掴み、円を描く様に揉まれていく。

「ぁあ…ん、ん、…ぁ…」
「ちゅ、ん…。あんたの胸…柔らかいな」

弾力のある乳房は、ヒーローが揉むたびにその柔からかさを確実に彼の掌全体に伝わらせ、掌の真ん中には、硬く尖った乳首がその存在を知らしめる様に当たっていた。
その乳首の根元を親指と人さし指で摘み、くいっと捻ると、ヒロインの甘い声が更に高く上がる。

「あんっ!」
「…これが感じるんだな」

キスを終えヒロインをじっと見つめながら、ヒーローは両方の乳首を摘んだまま上へと捻り上げていく。

「あんっ、ああ…ん、イい…」

潤んだ瞳でヒーローを見ながら声を上げるヒロイン。
そんな彼女に導かれる様に、ヒーローはそのまま顔を胸元へと下げていく。

「あ、ぁ…あぁん!」

ヒロインがビクンと、身体を震わせ後ろの岩に頭を当てながら仰け反る。
ヒーローの舌が右の乳首に触れ、そのまま口の中に全て含んでしまうと、ちゅううっと音を立てて吸い始めていた。
左の乳首は、三本の指の腹を当てこねる様に乳首だけを転がしていく。

「あぁんっ、あっ、あんっ」
「ちゅう…こんなに硬くして…あんたは敏感なんだな…」

吸った乳首を、口の中でレロレロと上下に弾く様な舌先で転がし、三本の指から一本の指だけで乳頭に触れ、優しくゆっくりと円を描く様に乳首だけを転がしていく。

「ああん、あんっ、あぁん…ヒーロー…」

見知らぬ男に触れられている時よりも、ずっと気になっていた彼に触れられている方が、心も身体も満たされ快楽で埋まっていく。
もっとしてほしい、ヒーローに触れてほしい、今のヒロインはそれだけであった。
ヒーローの左手がヒロインの右の乳房の根元を掴み、乳首を突き立たせると、そのままじゅるっと音を立てながら強めに吸っていく。

「あぁんっ!あんっ、あっ、あぁ…」

ヒロインの喘ぎ声と共に、彼女の乳首は限界まで硬くなり、ヒーローが吸うとその硬さが舌で感じられ、更に吸いやすい様になっていた。
左の乳首も、転がすのを止めるとピンッとそそ立つが、再び指の腹を当て、左右に撫でていくとその形を変え、根元から折れ曲がってしまう。

「ああん、や、あん…あぁんっ」

乳首が折れ曲がるとそこから快楽が伝わり、ヒロインは声を上げてしまう。
指と舌、違う感覚で愛撫される感覚はとても気持ちが良い。

「ちゅ、ん…ヒロイン…」

少なからず、ヒーローも温泉の媚薬に影響はされていた。
が、ヒロインに惹かれている想いは嘘ではなく、自分の意思で彼女に触れていた。
ちゅぱっと右の乳首を引き抜き、今度は左の乳首へ舌を這わし、根元に舌を当て先端までペロリと舐めあげていく。

「ふあぁ…っ、ヒーロー…やあ、ぁ…」

指で愛撫された左の乳首は、ピッと縮み込みその硬さを物語っている。
が、ヒーローの熱い舌が舐め上げていくと、その硬さがほぐれる様な不思議な感覚に陥る。
実際は、硬さはほぐれる事はないが、ちゅううと強めに吸われると、なんとも言えない快楽がヒロインを包み込む。

「あぁんっ!あっ、あっ…ああん」
「ヒロイン…」

ヒーローは彼女の名前を呟きながら、左手をするりとお腹の下へと忍ばせていく。
内腿を撫で、直ぐにその奥へと指を忍ばせ触れると、そこはくちゅりと水音を立てヒーローを迎え入れていた。

「やあぁ…っ」
「脚…ん、もっと、開けるだろ…?」

乳首を吸いながら、ヒーローはヒロインに呟く。
彼女は彼の言う通り、温泉に浸かっている足首を動かし、横へと開いていく。

「ふ…良い子だ…」

ニヤリとヒーローは微笑むと、蜜で溢れるそこを指の腹で触れ、上下になぞる様に動かしていく。

「ふああんっ!あぁ…っ」

敏感なそこを触れられ、ヒロインは声を高く漏らす。
周囲に人影は無いが、まだ同じ行為をしている男女がいるだろう。
ヒロインはもう全く気にもとめず、快楽に声を漏らす。
ヒーローの指が動く度に、ヒロインの蜜は更に奥から溢れ、彼の指を濡らしていく。
蜜を指に絡ませ、蜜が溢れるそこに指の腹を当て、くるくると円を描く様に刺激を送る。

「ああんっ、あんっ。はあ、あ…ん」
「ちゅっ。…凄い溢れてくるぜ?…あんたほんとに敏感なんだな…」
「やあん、だって…あぁん」

ヒーローの言葉1つでさえ、ヒロインに快楽の波を引き起こさせていた。
蜜溢れるそこを刺激させ、ヒーローの指はもう一つの突起へと這わされていく。

「ああっ!」

ヒーローの指が微かに触れただけで、ヒロインの身体に電流が駆け巡っていく。
突起に人差し指と中指の指先を当て、ゆっくりと上下になぞっていく。

「はあんっ!あぁんっ!」

ヒロインの声が今まで以上に高く上がり、快楽の強さを物語っている。

「ふ…これが良いのか…?」

ヒーローはそう呟き、突起を押さえたまま、ゆっくりとこねる様に円を描きながら撫で回していく。

「はぁんっ、あんっ。イい…気持ち、イい…っ」

トロンとした瞳を浮かべ、ヒロインは胸元にいるヒーローを見つめる。
ヒーローはヒロインの視線に気づき、再び乳首をペロペロと舐め回していく。

「ああん、あっ、あん。乳首もイい…ヒーロー…もっとしてぇ…」

普通の状態でこういう事をしていても、ヒロインは自らこんな事を言ったりしないだろう。
が、今は媚薬に完全に包まれており、いつもの彼女はそこにはいなかった。

「…ちゅっ。…ヒロイン、今度あんたを抱く時は、ありのままのあんただ。今のあんたは違うからな。…直ぐ、イかせてやる…」

ありのままのヒロインが見たいと、ヒーローは呟く。
そして、乳首をちゅうっと音を立てながら吸い、指の腹から指先だけで突起に触れると、そのまま振動させる様に指先を動かし、突起へ刺激を送る。

「あぁあんっ!やあんっ、あん!」

突起を刺激されると、とても強い快楽が全身に伝わり、ヒロインは大きく喘いでしまう。
硬く尖る乳首の感触を楽しみながら吸い上げ、そしてペロペロと舌先で刺激を送る。

「ああんっ、はあんっ」

そして、振動させる指先を今度は早さを弱め、ゆっくりと上下に突起を擦り上げていく。

「はあぁんっ、ああんっ、イいよぉ…」

足の先まで甘い痺れが伝わり、ヒロインはガクガクと震えていた。
ヒーローの巧みな愛撫に、ヒロインの身体は快楽の頂点へと登りつめていた。
ヒーローにもそれは分かっており、再び突起へ送る指の振動を早めていく。

「あぁあんっ!はぁん、だ、だめぇ…っ、やああんっ」

ヒーローの肩にしがみつき、ヒロインは首を仰け反らせる。
足の震えが強くなり、立っている事が辛くなっていた。

「ちゅっ、ん…イけよ、ヒロイン…」

ヒーローはそう呟き、ちゅううっと乳首を強く吸い、指の腹を突起に当て、円を描きながら強めに撫で回す。

「ああぁん!あんっ、イく…イっちゃう!はあぁあんっ!」

全身に甘い痺れが流れ、ヒロインはその身をヒーローに任せた。
痺れが無くなるまで、ヒロインは首を仰け反らせたまま、トロンとした瞳で立ち上がる温泉の湯気を見つめていた。

「…」

ヒーローはヒロインの乳首から舌を離し、顔を上げ彼女の顔を見つめる。
ヒロインも首を元の位置に戻し、ヒーローを見つめ返す。

「ヒーロー…」
「…後ろ、向けるか?」
「うん…」

赤く染まった頬で、ヒーローが呟くと、ヒロインは直ぐにコクンと頷き、背にしていた岩の方を向き、両手でその岩に触れる。

「…ふ、可愛いな…」

突き出されたヒロインの尻を両手で撫でながら、ヒーローはその身を彼女にくっつけていく。
クチュッという水音は、彼を受け入れる準備が整っている事を表していた。

「俺も…あんたが可愛すぎて限界だぜ…。ッ…」
「あぁ…っ!」

ズプリという水音を上げ、硬く熱いものがヒロインの膣の中へとその身を沈めていく。
ヒーローのものが奥へと進んでいく度に、ヒロインの膣はそれを締め付け、その感触を楽しもうとする。

「ああ、んっ…ヒーローの…硬い…っ」
「く…ッ、言っただろ…あんたが、可愛いからだって…ッ」

ヒロインのお尻をがっしりと掴み、ヒーローはそのまま自身を奥へと突き上げる。

「ああぁん!あぁ…っ」

ゆっくりと奥へと進んでいたヒーローのものが、一気に膣の奥へと当たり、ヒロインは再び首を仰け反らせてしまう。
奥へと着いた自身を、今度はゆっくりと後ろへと後退させていく。
それを逃すまいと、ヒロインの膣はヒーローのものを締め付けていく。

「はああ、ん。ああん」
「ッ…ヒロイン…んな、締め付けるな…ッ」
「だってぇ…ヒーローの…あぁん!はあぁんっ」

最後まで言い終わらないうちに、根元が膣の外へと出ていたヒーローのものが、再び奥へと突き上げられ、悦びの声を上げてしまう。
そして、自身をまた膣の外へと出していき、それをさすまいとヒロインの膣がヒーローを強い力で締め付ける。

「く…ッ…」
「やあ…あん。ヒーロー…いかないで…離れないで…っ」
「誰が…離すか…。言っただろ…あんたの事…好きだって…ッ」

ヒーローの手はお尻からヒロインの腰へと移動し、そのまま強く自身を突き上げていく。

「はあぁん!あぁん!」

ヒロインも自ら腰を動かし、ヒーローのものが奥へと当たるようにさせていた。
二人が快楽を求めて動く度、膝下まで浸かった温泉の湯がピチャリ、ピチャッと音を立てて波打っていく。

「ヒーロー…っ、私も…貴方が好き…っ、ああん、はあっ」

ヒロインの理性は既に無くなっていたが、ヒーローへの想いはまだ頭で覚えていた。
ヒロインの言葉を聞き、ヒーローは彼女の奥を突き上げていた自身をゆっくりと引き抜く。

「ああっ…」

満たされていたものが無くなり、ヒロインは首を横に振って否定する。

「誰が離すか…ヒロイン、こっち向けよ…」

ヒーローがヒロインの肩を持ち、ゆっくりと自分の方へ振り向かせる。
振り向いたヒロインの瞳は、涙が浮かび潤いを帯びていた。

「ヒーロー…」
「ッ…ヒロイン…」

ヒーロー自ら、彼女の肩を掴んだままその唇を奪っていた。

「あ…ん、ヒーロー…」

ヒーロー自身も、僅かだが温泉の効能が身体に効いている様であった。
お互いの舌を絡ませ合いながら、ヒーローは再び自身を蜜で濡れビクッとなっている彼女のそこに当て、そのままグチュリと音を立て挿入させていく。

「んっ…ああんっ!」

満たしてほしいと疼いていたそこに、再びヒーローの熱いものが入り、キスの合間に喘ぐヒロイン。

「あんたの中…熱いな…ッ」

キスを終え、ヒーローはヒロインを見つめながら囁く。
そうさせながら、自身をグッと奥へと進ませそのまま突き上げる。

「あぁんっ!ああ…っ、ヒーローのも…熱いよぉ…っ」
「ああ…そうさせたのはあんただ…ヒロイン…ッ」

ヒーローはヒロインの左足を右手で抱え込み、左手は彼女の尻をぎゅっと掴み、更に奥へと強く突き上げていく。

「はあぁんっ、あぁんっ。イい…ヒーロー…っ」

ヒロインもヒーローにしがみつき、彼のものが奥を突く度に、ぎゅっと締め付け更なる快感を求める。
温泉に浸かっている右足は勿論、全身もそれ以上に熱を帯び、快楽の限界が再び近づいている事を物語っていた。
ヒーローは、腰を打ち付け合うと大きく揺れるヒロインの乳房に顔を埋め、硬く尖ったままの乳首を口に含み、ちゅうっと吸い上げる。

「やああん、ああんっ。だ、だめぇ…っ」
「ん、ちゅ…ッ」

吸った乳首を口の中でコロコロと舌先で転がし、反動をつけ腰を打ち付け、ヒーローは自身をヒロインの奥へと突き上げていく。

「ああん、あんっ、あぁんっ。ヒーローだめぇ、またイっちゃう…!」

二度目の絶頂を迎えようと、ヒロインの足は再びガクガクと震え始め、頭の中が白くぼやけていく。
ヒーローも、それは同じであった。
反動をつけていた腰の動きを早め、グン!と、強く早く奥へと自身を打ち付けていく。

「く…ッ」
「はあぁあんっ!あぁんっ!」

ヒロインの締め付けも強くなり、ヒーローを逃さないと、きゅっと彼のものを締め付ける。
その途端、ヒーローのものがドクンと波打ち、ヒロインの中に熱い欲望が流れていく。

「あっ…はあ…はぁ…」

ヒーローのものが自分の中をドクドクと流れていくのを感じながら、ヒロインはそのまま意識を手放していたー。




夜の街の酒場。
客は居なく、マスターが一人グラスを磨きながら不気味な微笑みを浮かべていた。

「…ひひひ、今日もまたバカな人間達が快楽に溺れていったわ。この街は皆快楽に溺れ、いずれ滅んでいくだろう。ひひひ…」

目を妖しく光らせ、マスターは呟く。

「やはり貴様の仕業か」
「!な、何?!」

酒場のドアの前に、青い服に身を包んだヒーローが立ち、マスターを鋭い瞳で見据えていた。

「ヒロインにやたらそのカクテルを勧めていたから、怪しいとは思ったが。これで確信がついたぜ。温泉に媚薬を入れ、そのカクテルも媚薬入りにし、人間達のやる気を奪っていたのは貴様だという事がな」
「く…気付く人間がいたとは…こうなれば!」

マスターに化けていた魔物は正体を現し、ヒーローに向かって飛びかかっていく。

「…失せろ」

ヒーローが一言そう言い、腰の鞘の中から剣を取り、サッと魔物に向かって切り裂く。

「そ、んな…馬鹿な…ぐふっ!」

ヒーローの一撃で、魔物はその場に倒れその姿を消していった。

「ふん、あっけなさすぎるぜ」

ヒーローは一言そう言うと、その場を後にしたのであった。




「う…」

腰がやたら重く感じる中、ヒロインは同じく重たい瞼を開ける。
ゆっくりと起き上がり、周りを見渡すと、何処かの部屋の様であった。

「…目覚めたか」
「!あ、貴方は…」

青い剣士の美青年の姿が視界の中に入り、ヒロインは思わず頬を染める。

(わ、私…覚えてる。昨日…あの温泉に入って、知らない人に触られて…感じてきちゃって…。そうしたらこの人が…名前はヒーローさん…が、助けてくれて。それなのに…私は…)

ヒロインがしどろもどろになっている様子を見て、ヒーローはフッと笑う。

「…ふ、昨日のあんた、積極的で可愛かったぜ」
「!!す、すみませんっ!私…とんでもない事を…っ」

頬を真っ赤になるまで染め、ヒロインはベッドから起き上がり頭をさげる。

「謝らなくていい。あの温泉は魔物がやった事だからな」
「え、魔物が…?」
「ああ。魔物が温泉の中に媚薬を入れ、入る人間達のやる気を奪い
、快楽に溺れさせていた」
「快楽に…」

ヒロインはやっと、自分がおかしくなった理由を悟った。
だからこそ昨夜、ヒーローに積極的になってしまったのであろう。

「その魔物は…」
「俺が始末した、もう温泉も普通のものに戻っているだろう。人間達もな」
「ヒーローさんが…」

自分は何も役に立てなかった、それどころかヒーローに迷惑ばかりかけてしまった。

「ヒーローさん、迷惑ばかりかけて、助けて貰ってばかりで…本当にごめんなさい…」

ヒロインは再び、精一杯頭を下げる。
ヒーローに対して、本当に申し訳ない気持ちで一杯であった。

「…」

ヒーローは無言でヒロインに歩み寄り、頭を下げる彼女の肩を持つ。
ヒロインがゆっくりと顔を上げると、そのまま肩から頬へと手を伸ばされる。

「…なら、どうする?責任取ってくれるのか?」
「あっ…私の出来る範囲なら…んっ…!」

言い終わらない内に、ヒロインの唇はヒーローの唇によって塞がれていた。

「…俺が言った言葉、覚えてないのかよ」
「っ…」

ヒーローの瞳に吸い込まれそうになり、ヒロインはドキッとなる。
私の事が好きだと、ヒーローは言ってくれた、それは頭の中で覚えている。

「私の事…ヒーローさんは好きだって…」
「俺は嘘はつかない。好きでもない女を抱くほど、俺は女好きじゃねぇぜ。…ヒロイン、好きだ。殆ど…一目惚れだけどな」
「ヒーローさ、…んん…」
「ヒーローでいい…本当のあんたを見せろ…俺だけに、な…」
「ヒーロー…」

ヒーローに再びキスされ、そのままヒロインは彼に身を委ねていく。

(こんな事ヒーローには言えないけど…魔物には感謝してる。だって…魔物が媚薬入りの温泉にしてくれなかったら…ヒーローとは出会えなかったもの…)

蕩ける様な甘い気だるさの中、ヒロインは目を閉じ、ヒーローを想うのであったー。


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