二宮の場合
ほらほら、おいで。
そう思った瞬間にひゅん、と風を薙ぐ音。私はぐいと上半身をそらしてその長い剣を避けた。思う様にこちらの意図にのってくれた相手に思わず笑いそうになるのをこらえる。
そのまま挑発するようにトリオンキューブを出現させると大きく分割して打ち込む。あくまで反撃したように見せるように、あまり手を抜かないように。レーダーをちらっと見れば後ろにもう一人。
来るであろう攻撃のために少しだけ体をずらす。急所にあたってしまってベイルアウトするわけにはいかない。
やはり思った通りに後ろから思い切り斬りこまれる。わき腹から突き出した弧月をちら、と見た。仮想の体といえど少しある痛覚が脳を刺激していた上に、傷口を見たせいでもっと痛く感じるーーそれに、あの人は怒るんだろうな。自分以外が傷をつけるのは許さないだろうし。
「っ、」
「おいおい、過去の栄光いえど元A級だろ」
そう言ってせせら笑う相手をしり目にレーダーを見る。ほら、やっぱり。私が攻撃されたのを知ってすごい勢いでこっちに来た。
私はわき腹から飛び出る弧月の刃を握るとにっこりわらう。
「2ポイントゲット」
「はあ?」
瞬間、後ろからすさまじい数のアステロイドが飛んでくる。雨のように降り注ぐそれは相手をあっという間に吹き飛ばしたーーもちろん、私も一緒だ。アステロイドに左足を吹き飛ばされて私はそのままごろりを地面に転がる。
ふと視界に映った見慣れた革靴に私は思わず微笑む。
「・・・・ごめん、トリオン切れそう」
そのまま視線を上に上げるとこの上なく不機嫌そうな匡貴とばちりと視線が絡むーーといっても、匡貴の視線はすぐに私のわき腹に移ったんだけれど。
「誰が囮になれといった」
「うーん、自主的に? だって辻ちゃん女の子相手だったから落とされちゃったし、澄晴は足止め食らってたしーー匡貴が、来てくれると思ったし」
この一言に少しだけ表情が和らぐ。あぁもう、ちょろいなぁ。
「ねぇはやく」
「うるさい黙れ。お前こそ分かっているのか」
キン、と音と共に匡貴が作りだした大きなトリオンキューブが現れて、どんどん小さく分割されていく。
「お前を殺していいのも、傷つけてもいいのは俺だけだ」
返事の代わりに私はお好きにどうぞ、と笑った。次の瞬間には、アステロイドの雨が私に降り注ぐのだった。