ナルキッサスは、枯れていく



 *ジャスミンの夢設定。もしもハイレイン落ちだったら。ひたすら暗いです注意。





 彼女はいつだって無理に笑おうとするときは頬が引きつっていた。キリは単純で不器用だから、いっぺんにいろんな感情を取り扱うことができないくせに、いつだって無理をする。昔から、そうだ。昔っから。

 「ごめんなさい、やっぱり私、帰れない」

 おまえ、気付いてる?

 自分では笑ってるって思っているんだろうけれど、キリ、できてないよ。

 「あのね、最後に悠一にさようなら、だけは言いたかったの」

 待て、と伸ばした手は空を掴む。無情にも、ゲートは迅の前で閉じた。





 くらくら、と眩暈がしてキリは座り込んだ。頭がずきずきして、重い。

 「キリ、大丈夫か」

 ハイレインが慌ててキリの前にしゃがみこむと手を差し出す。キリはそんな手を掴むと笑ってみせた。

 「大丈夫、ちょっと眩暈がしたの」

 「あまり無理するな、付けたばかりは角の負担が大きい」

 手を引いてそのままソファに座らせると、彼女の顔を覗き込むようにしゃがみこんだ。キリはくすくす笑うとハイレインの頬に手を添えた。

 「不思議よね、ここの国の人は幼いころには付けてるのに、私はこの年になってからだよ? あと、昔の記憶がなんだかあやふやなの。私、ずっとここにいたんだよね?」

 じっと不安そうな瞳と視線が絡む。

 その目に映るのはハイレインだけだった。

 ハイレインは頬に添えられた手をやんわり頬から話すと甲に口づける。

 「・・気にするな。疲れただろう、少し寝てくればいい」

 「お言葉に甘えてそうしようかな、ハイレインも無理しないで。最近あまり寝てないでしょ?」

 「俺はいい、気にするな」

 額にキスを落とせば、キリはちょっとだけ笑った。





 最近、不思議な夢を見る。

 キリは一面真っ白な部屋の真ん中に立っていて、ひたすら誰かを待っている。

 『  』

 声こそは聞こえないものの、多分誰かに名前を呼ばれて、それが嬉しくて、悲しくて。キリは思わず振り返る。そして、毎回ここで目が覚めるのだ。

 「!」

 ばっと目を覚まして体を起こす。汗がじとっと体にまとわりついていて気持ち悪い。いつもこうだ、この夢を見た後は大きな何かが胸につかえてて、何かを失ったようで悲しくて、何かを忘れてしまったようでーーぐちゃぐちゃな感情に押しつぶされそうになってキリはたまらず名前を呼ぶ。自分の記憶の中にある、唯一の名前。

 「っ、ハイレイン、ハイレイン・・!」

 「! どうした」

 書類整理をしていたのか、持っていた書類を半ば机に放り投げるようにするとキリの元へ駆け寄る。かたかた、と思わず震える体をぎゅうっと抱きしめられてキリは思わずその大きな体にしがみつく。自分より大きくて筋肉質な、体。

 違う、と反射的に感じてまた考え込むーー何が、違う?

 「変な、夢を見たの。私、なんか、」

 「大丈夫、大丈夫だ」


 『大丈夫だ、キリはここにいる』


 いつだったか、そんな言葉と一緒に誰かに今みたいに背中を撫でられらたような気がする。とても、安心する手。

 キリは再び込み上げてきた睡魔にそのまま意識を預けるように、ハイレインの腕の中で瞼を閉じた。だから、


 「・・・・大丈夫だ、キリ。もうじき全て忘れてそんな夢さえ見なくなる」


 この、ハイレインの言葉も歪んだ笑顔も彼女は知らない。


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