君に幸せな時間を




 「何が欲しい?」

 「んー・・、キリか睡眠時間」

 「は? って、ちょっとちょっと!」

 今日は迅の誕生日という事で、キリのアパートで二人きりの誕生会なるものをしていた。

 本当は、プレゼントは事前に買って、サプライズの様に渡すのがもっともそれらしいのだが、彼の能力上それは少し難しい。
 それならいっそ、迅に直接聞いてから一緒に買いにいけばいいと思い、キリがそうきりだせば、迅はそう言ってキリの隣に座ってもたれかかる。

 「・・寝てないの?」

 「んー、まぁ・・」

 そう言う迅は少しうつらうつらしている。そう言えば目の下にクマがくっきりあるような気がするし、先ほど料理を食べているときもどこか気だるげだった。

 「実力派エリートはやることがいっぱいあるもので」

 「・・嘘つき」

 肩にもたれかかって軽口をたたく迅にキリは呟く。

 彼は、そのトリオン量からサイドエフェクトと呼ばれる能力を持っていた。彼のサイドエフェクトは、人の未来が見えること。
 彼と、いわゆる恋人同士というものになってからキリは、その名称通りその能力が彼に多大な副作用を与えている事をありありと実感した。

 誰よりも、優しい彼は人の未来の為に動くことが多い。それゆえに、いつも自分のことは二の次で、今だってこうして睡眠時間を削ってまで誰かの未来を変えようと奮闘したのだ。

 「悠一は、ばかだよ」

 「んー、ばかってひどいなぁ」

 「・・ばかだよ。自分に、負担かけてばっか」

 「おれはいいの」

 平気だから、といつもの言葉が紡がれる前にキリはぐっと迅の頭を掴むと自分の膝に乗せる。

 「よくない。誕生日ぐらい、自分を優先しなきゃ潰れちゃうよ」

 迅は、キリの膝の上で面食らったようにぱちぱちと数回瞬きし、ふ、と笑うとキリの頬に手を伸ばす。

 「・・ありがとうな、キリ」

 「・・言っとくけど、これがプレゼントだからね。悠一がそう言ったんだから」

 そう言ってふさふさした茶髪を指で梳いて、頭を撫でる。迅はくるり、と体ごと横を向くとキリの腰に腕を回すと甘えるようにすり寄る。

 「ん、じゃあお言葉に甘えて。ずっとこうしててほしいかな」

 「素直でよろしい」

 「なんじゃそりゃ」

 言葉の通りに決まってるでしょ、と返そうとして迅が眠りについたことに気付く。撫でる手を止めると、赤子をあやすようにキリはぽんぽんと迅の背中を優しくたたく。

 「・・おやすみ、悠一」

 今だけは、穏やかな時間を。

 いつもより幼く見える寝顔にそう呟いて、キリは少し微笑んだ。
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