タイムリミット1
「あれ・・風間さん・・ですよね?」
授業終わりにかけられた聞き慣れない声に振りむけば、どこかで見たことのある顔が映る。
「・・・・」
思い出せないで黙っていると、その顔はきれいな笑顔を作った。
「やっぱり! この前はありがとうございました」
そう言われてあぁ、と納得する。この前、近界民に襲われていたあの女性だと。その人はニコニコ笑いながら近づいてくる。無視するのも悪い気がして、無造作に筆記用具を片して彼女を待つ。
「西条キリって言います。是非お礼をさせてください」
それが、西条キリとの出会いだった。
「いやぁ、講義中に気付いたんですけれど、ちょっと雰囲気が違うから・・声掛けてよかったです。ずっと会いたかったから」
「・・それは、どうも」
どう言い返せばいいのか分からなくて、彼女からおごってもらったコーヒーが入った容器を指でつつく。
「でも同じ大学だったなんて、世間は広いようで狭いんですね」
そう言ってえへへ、と笑うキリに曖昧に会釈した。どうも女性との付き合いというのがあまり慣れてないせいか、ぎくしゃくしてしまう。
「・・でも、本当によかった・・」
「・・?」
ふと、切ない顔をしたのちに時計を見てキリはアッと驚く。
「ごめんなさい、私次の講義行かなくちゃ! じゃあ、また会えたら!」
「会えたらって・・おい、」
机に残された彼女の時計に気付き、慌てて呼び止めるも時すでに遅し。彼女の姿は人ごみの中に消えてしまっていた。
(忙しい人だな・・)
よくわからん、と時計を掴む。そこに置いたままにするのも気が引けたからだ。
ーーまた会えたら。
(よくわからないな・・)
なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えつつ、風間もその場を後にした。
「あら、風間さんお帰りなさい」
一足先に部屋にいたオペレーターの三上は、そう言って風間が持つ腕時計を見て驚く。
「あれ、風間さんそんな時計持ってましたっけ」
「・・いや、今日声掛けられた人の忘れ物だ」
「えーファンですかー?」
少しからかい気味の三上に違う、と首を振る。
「この前、近界民を倒したときに助けた人がお礼に来ただけだ」
「でも、なんていうか・・礼儀正しいんですね、その人」
二人のやり取りをなんとなく聞いていた歌川は思わず口をはさむ。
「普通、ボーダーの人が助けてくれたってくらいの認識じゃないですか・・また、会えるといいですね。本当の風間さんファンだったりして」
あはは、と笑う歌川を軽く睨む。
(また会えたら・・か)
あの笑顔がまた見れるのならばいいかもしれない。時計をポケットにいれつつ、風間はぼんやりとそんなことを思うのだった。