呪い






 「信用できるのは、もう慶と忍田さんだけだから」


 あぁ、なんて残酷な言葉。



 「おいキリ!」

 飛んできた大きな声に、またか、とキリは振り向く。その先にはキリの幼馴染でもある男ーー太刀川がいた。

 「ランク戦するぞ!」

 ここ数日間何百何千と聞かされたその言葉に、キリはいつもの返事を返す。

 「うっさい、戦闘バカ! そんな事言ってるヒマあったら講義出てこい、単位を取れ!」

 「お前も今日はサボりだろ」

 「っ・・それは・・そんな気分じゃなくて・・」

 それに、とキリは自身のトリガーに触れる。

 「・・あたしはもうランク戦できないの」

 そう、彼女はつい先日ブラックトリガーに選ばれ、手に入れたのだ。

 (・・卑怯だよな)

 そのブラックトリガーは、もとからキリの物ーー彼氏だったのだから。



 彼女との出会うきっかけは、彼女もまた忍田本部長の弟子だったこと。そして、後に彼氏になるソイツも同じ弟子だった。
 お互いに別の隊を結成してからも、よくランク戦をしたものだ。

 一つ目の歪は、自分がキリに惹かれたこと。

 そして、決定的な歪はアイツが任務で失敗し、キリもピンチに陥ったその時、自身をブラックトリガーにして消えたこと。

 「慶・・どう、しよう・・どうしよう・・!」

 一人だけ帰ってきた傷だらけのキリは、見知らぬトリガーを抱えながらそう言ってきた。

 「どうしようって・・一体・・」

 「アイツが、後は頼むって・・く、崩れて・・! どうしよう、慶、どうしよう・・」

 泣きじゃくるキリを抱き留めながら、最初に思ったのは、

 あぁ、これで気兼ねなく彼女に惹かれていいのだという事。

 次に思ったのは、

 アイツはブラックトリガーを託すことで彼女を永遠に縛りつけたという事。

 「隊はないけど・・私、アイツのために頑張らなくちゃ」

 その笑顔でこっちも見ろ。

 「慶は、いつまでも居なくならないでね」

 視線はブラックトリガーに。

 そしてゆっくり、彼女は離れていくのだ。徐々に、だけれど確実に。



 「・・い、慶!」

 大声で呼ばれてはっと我に返る。いつの間にか顔を覗き込んでいたキリの顔は少し呆れていた。

 「何なのよー。人に無茶振りしたりぼーっとしたり」

 「・・別に」

 ぐっと彼女を押しのけて歩き出す。ーーが。

 「あーもー、分かった! 明日! 学食おごってあげるから絶対来なさいよね! 留年なんて言ったら忍田さん、怒るわよ!」

 そう言われて、振り返ればキリは以前までと似た笑顔で笑っているものだから、また期待を抱いてしまうのだ。




 (・・じゃあネギトロ丼コロッケ付き)
 ((・・一番高いの選ばないで、吊るすわよ))
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