ロックオン






 ぶっちゃけ顔には自信ある。

 こういったら東はそうだろうな、と頷いて諏訪なんかはうぜぇなと顔をしかめた。まぁ、それはいいとして。

 もともと戦闘員だったシグレは、容姿的に根付に目をつけられ広報の方に引っこ抜かれた。
 当時、まだ嵐山隊のようなアイドル部隊もなかったので世間のボーダーイメージが悪くならないように、容姿が整ったシグレを記者会見やテレビ、雑誌のインタビューなどで出すようにしたのだ。

 ぶっちゃけてしまえば、根付のもとで仕事をやりはじめてからファンもそれなりに付いたし、ちょっと仕事でイベントに顔を出せば黄色い声だって飛んでくる。

 だから、世間的にはシグレはイケメンという部類で。つまり世の女性が壁ドンされるなら彼! みたいな憧れにもなるわけで。

 なる、わけなのだが。

 「響ー子!」

 廊下の先に見知った背中が見えてシグレは、その背中にそう呼んで回り込む。

 「うわ、シグレ・・」

 「うわー、何その嫌そうな顔ー」

 沢村は、にこにこと笑顔なシグレに微妙な顔をする。

 そう、この響子こと沢村響子は絶対シグレになびかない。むしろシグレを毛嫌いしていると思われるのだ。
 同期ということもあって元から話す間柄だが、それ以上には発展しない。悲しいかな、今のところお友達状態なのかさえ怪しい。

 「で、何か用?」

 「んー、響子のお手伝いかな。どうせ俺も根付さんに呼ばれて上にいくからさー」

 「そりゃどうも。はい、じゃあこれ」

 そう言って沢村は容赦なくシグレの腕に重い荷物を載せた。あまりの重さに少しシグレはよろめく。

 「・・っていうか、その呼び方やめなさいっていったでしょ」

 「んー、響子がシグレくん大好きって言ってくれたらやめてあげる」

 「絶対、イヤ」

 びしっとローキックをひざ裏にくらう。まったく容赦ない。

 「つめてーなぁ。俺は悲しいよ」

 「嘘つき。顔が笑ってるわよ」

 じと、っとにらまれて慌てて直す。ふと、沢村の表情が変わった。

 「あ、本部長」

 その横顔はいかにも恋する乙女です、という顔でシグレは少し不機嫌になる。

 「・・んー、ああいうの好みなんだ」

 「誰かさんみたいにちゃらちゃらしてませんから」

 「だれだれー?」

 「お前だ!」

 そう言って顔をのぞきこめば、本日二度目のローキックを叩きこまれる。

 沢村は強い。いや、元々戦闘員ということもあって力もさながら心がという意味で、だ。昔から、そういうところが好きだった。まっすぐなその目も心も。
 今だって、望みが希薄な忍田に対してまっすぐ思いを寄せている。

 「・・それ、俺に向いたらいいのになぁ」

 「何か言った?」

 おもわずそうごちれば、沢村はくるっとこちらを振り向く。その瞬間に綺麗に舞う黒髪とか、やっとこちらをまっすぐ見る目だとか全部全部自分のものになればいいのに。
 もしも自分に向けてくれたのならば、迷わずまっすぐ受け止めてやるのに。

 「んー、いや。響子が俺を好きになってくれたらなぁって」

 「また冗談を」

 はあっと息をついてまた歩き出そうとした沢村の腕を掴む。

 「ちょっと・・!」

 「冗談じゃ、ないから」

 ちょっと顔を近付ければ、沢村はちょっと目を見開く。いつものへらへらした表情はどこへやら、シグレは真っ直ぐ沢村を見つめる。

 どき、と心臓がちょっと高鳴った。おそらく、それはむかつくことにもシグレの顔が整っているからで、ただそれだけだ、と沢村は自分に言い聞かせる。

 「好きだよ、響子」

 「な、なに、を」

 そう囁かれてばっと体を離される。まるで魔法にかけられたかのように、体から一気に力が抜けてへなへなとその場に座り込む。心なしか、顔が、熱い。

 シグレはそんな沢村の頭を撫でると、ちょっと顔を赤らめていった。

 「おー、その反応だとまだ俺にも望みアリ、ですね」

 バカ、そんなわけないでしょうと言いかけて沢村は口をつぐむ。あまりにも、シグレの目は真っ直ぐ沢村を見ていたから。

 「忍田さんより大切にできる自信ありますから」

 待ってまーすと普段の調子に戻るとシグレはひらひらっと手を振って先に歩き出す。沢村は、呆然とその背中を見つめた。

 「なんなの、」

 いつもの軽いノリを消したり、かと思ったらいつもの調子に戻ったり。ーー絶対、これはからかわれている。

 沢村はきっとシグレの背中を睨むと追いかけた。

 「待ちなさい! シグレ!」

 後々、シグレの猛アタックによって沢村が折れて付き合い始めるのだが、これはまた、別の話。










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