アラベスク






 「そ、そのだな。キリに、プロポーズしたいんだが・・」

 ずっと抱えてた悩みを仲間に打ち明ければ、絢辻や木虎は黄色い声を上げながら飛び上がって、佐鳥はおぉーっと驚く。時枝は特に驚く事なく、やっとですか、なんていつもの顔で首を傾げるのだから、嵐山はちょっと気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 「いやぁ、ここまでがホント長かったなぁ・・」

 佐鳥はしみじみそう言って頷く。その隣の時枝も、うんうんと佐鳥の言葉に続けた。

 「お二人とも、恋愛に疎いから。やっとですかって感じです」

 綾辻は、ぐっと目を輝かせて嵐山を見つめる。

 「嵐山さん!プロポーズって、どんな感じにするんですか!?」

 「あ、綾辻さん・・! それはさすがに・・!」

 そう言いながらも木虎はちょっと嵐山を見ている。

 「それが・・分からなくてだな・・。だからこそ、綾辻や木虎の意見が聞きたい」

 嵐山の言葉に、綾辻は腕を組むと楽しそうに考え出した。

 「そうですねー、もう嵐山さんならとことん正統派な感じが一番似合うと思うんです!」

 「あぁー、跪いて指輪を・・って感じですか」

 「それ!」
 
 テンションが高い女子二人は、主役の嵐山そっちのけでプロポーズについてああだこうだ話し始める。ちょっと男には肩身の狭い話題に、佐鳥はちょっと唸って時枝は苦笑いしている。嵐山は考え込んでいた。



 「すまないキリ、遅れた!」

 「ううん、平気だよ」

 待ち合わせ時間が少し過ぎてしまい、嵐山は慌てて駅構内を走ると改札をくぐる。くぐった先にいたキリは、スーツケース片手にふわっと笑うとそう言った。久々のその笑顔にどきり、と胸が高鳴ってポッケに大事にしまってある小さな箱が少し重くなった気が、した。

 「いこうか」

 「・・・・うん!」

 あぁ、こんなにもキリを好きなんだなぁなんて自分で思いながらも恥ずかしくて。嵐山はごまかすようにキリの手を握ると指を絡ませた。

 結局隊員に相談したあの日綾辻が、

 「あ、そういえばこの前。キリちゃんと遊んだときに、あそこ行きたいなって言ってましたよ」

 ほらあそこ、と次に綾辻の口から出たのは有名なテーマパークの名前だった。

 「・・そういえば、最近そこのCMをよく見てたな・・よし! そうしよう!」

 「えぇ!? 即決!?」

 聞いてた佐鳥が驚く。

 「あぁ! 次はあれだな、その、ゆ、ゆび、指輪・・・・」

 「そこで恥ずかしがるんですか、嵐山さん」

 そんな感じでトントン拍子で話は進み、なんとかそのテーマパーク系列のホテルの予約をこじつけたのだ。嬉々としてそれを話せば、

 「え!? いきなり泊まり!? プロポーズして、そして、泊まり!?」

 と佐鳥に驚かれたのは未だに謎である。(その後、これまた何故か木虎が「思考が破廉恥です佐鳥先輩!」と佐鳥をぶっ飛ばしていた)



 「わぁ、今日晴れてよかったなぁ!」

 早々に荷物をホテルに預けると、#名前#は興奮気味に嵐山の手を引く。ちょうど休日ということもあって、人でごった返すパーク内をキリはぐるりと見て笑った。

 「キリは、何が乗りたいんだ?」

 「んとね、これとこれ!」

 ばさっと地図を広げて二人で覗き込む。キリが指を指したのはいわゆる絶叫系の乗り物だ。

 「キリ、こういうの平気なのか? 昔はダメだったじゃないか」

 「うーん、でもここまで来たんだよ? 全部乗りたいじゃん。明日もあるけど」
 
 そう言ってうんうん悩むキリの頭を思わず撫でた。

 ただ、一つ誤算だったのは自分の知名度だった。

 「嵐山隊の、嵐山さんですよね?」

 絶叫系の乗り物に乗ったのち、結局克服してなかったキリがダウンしたのでちょっと二人で腰掛けて休憩していれば、カメラを持った少女たちにそう声を掛けられた。

 「? そうだが?」

 特に何も考えずにそう言えば、やっぱり! と興奮気味の少女たちにあっという間に囲まれてしまう。

 「いつもテレビで見てます! お写真いいですか!?」

 ぐいぐい迫られて無下にするわけにもいかず、生返事で承諾してしまえばさらに人に囲まれてしまった。

 「キリ、」

 彼女に謝らなければ、と振り返って嵐山は言葉を失う。視界に映ったのは、今にも泣きそうな彼女だったから。

 「・・大丈夫だよ、准。私、あそこにいるね」

 そう言ってキリはその場を離れていく。結局、たくさんの人に解放されたのはかなり後で、そのあとはずっと#名前#は沈んだままだった。



 日が沈んだ後も気まずい雰囲気のまま、綺麗にライトアップされたパーク内を歩く。

 「いっ・・!」

 不意に手を引いていたキリがちょっと顔をしかめて立ち止まる。

 「どうした?」

 「う、ううん。何でもない」

 大丈夫、と言ったキリの笑顔は引きつっている。こういう時の笑顔は、無理をしている証拠だった。

 「大丈夫じゃないだろ、少し休もう」

 半ば無理やり引っ張って、近くのベンチに座らせる。どうやら靴擦れしてしまったらしく、踵の少し上あたりが赤くなって皮が剥けていた。ポーチに絆創膏がある、と彼女が言うので取り出すと貼ってやる。

 「・・・・・・ついて、ないなぁ」

 ぽそ、とつぶやかれた声は震えていた。

 「・・キリ、」

 顔をあげれば涙をぽろぽろ流すキリがいた。

 「私、我儘だなぁって。准は仕事で有名だから仕方ないのに、嫌だなぁって、思っちゃうんだ」

 「・・・・キリ、」

 「・・なんだか准が離れて行っちゃう気がして、こわい」

 吐き出されたその一言に、思わずぎゅっとキリの手を握る。イルミネーションが、目に痛い。

 「・・キリ、聞いてくれ」

 じっと見つめて、ゆっくり息を吸った。
 一日、ずっと考えていた。どの言葉が一番まっすぐに、キリに気持ちを伝えられるか。
 結局こうして彼女を前にすると、頭の中が真っ白になってしまう。

 せっかく考えた文章はとうに吹き飛んで、そっと#名前#の手を一度離すとかしづく。そしてずっと大切にしまい込んでいたちいさな箱を取り出した。
 瞬間、キリが目を大きく見開く。涙でぬれた瞳は、イルミネーションに照らされてきらきらと光った。

 「・・俺と、結婚してください」

 そう言った自分の声は震えていて。あぁ、カッコわるいな、俺。なんて心の隅で思いつつ、キリの言葉をじっと待つ。周りの声なんか、とうに掻き消えていた。
 しばらくパーク内を流れる軽快な音楽が流れたのちに小さな、本当に小さなキリの声が聞こえた。

 「・・・・・・はい、もちろん」

 「! 本当か!」
 
 嬉しさ半分、信じがたくて思わず聞き返せばキリはこくこくと真っ赤な顔でうなずいた。
 どうしようもなく嬉しくなって、キリを抱きしめればキリはちょっと体を強張らせて背中に手を回す。確かめるように、縋るようにするその細い腕に嵐山も負けじと抱きしめ返すのだった。
 そのちょっと後、急に屋外だという事に気付いて恥ずかしくなって二人は慌てて離れると少し笑いあった。

 (と、とと、とりあえず、明日こそまた気を取り直して色々回ろう!)
 ((う、う、うん、そうだね・・!))












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