生真面目彼女の恋愛方法






 キリはいわゆる優等生ってやつだった。

 付き合い始めてかなり経つのだが、仕事の時は仕事モード、普段は普段モードときっちりきっちりスイッチを分ける。なので、ボーダーにいる間はぜったい甘い雰囲気になるのを嫌がるのだ。それが、彼女の恋愛方法らしい。

 だからといって冷たいのか、と言えばそうじゃない。家に帰ればそれなりに甘えてくるし、それなりの事だってやっている。こんな彼女の一面を知るのは自分だけということが、何よりも嬉しかった。

 ただ、彼女は持ち前の面倒見の良さだとかで周りから慕われていた。もちろんそれは男性陣からもで、そのうちのほとんどがキリが諏訪のものだということを知らない。慕う、という感情以上の物をもつ奴らだっている。何よりも、それが一番諏訪を腹立たせた。

 「・・お前のせいか」

 肌寒さに目を覚ました諏訪は、いつのまにかタオルケットを占領する小さな背中を引き寄せてタオルケットを少し奪う。それから、キリの腰に手を回して柔らかな髪に顔を埋める。規則正しいキリの寝息に、また眠気がこみ上げてきた。

 ふと、キリの首元につけた痕が目に入ってある考えが思い浮かんだーー諏訪はちょっとにやっとする。


 きっと後で怒られるが、これなら、ちょっとは周りにアピールできるだろう。キリには近付くな、と。



 「キリさんお〜はよ」

 「おサノちゃん、おはようございます」

 諏訪隊のオペレーターである小佐野にそう挨拶され、キリはにこっと笑って会釈する。

 「それ、重くない?パシリ呼ぼうか?」

 「大丈夫ですよ」

 「そうー?」

 そう言ってダンボール箱を2つ積み上げた物をキリが抱え直すのを何気なく小佐野は見ていたが、とある事に気付いて固まった。

 「・・・・キリさん、もしかしてーー」

 「あ、キリさんおはようございます!」

 「お、おはようございます!」

 しかし、小佐野の言葉は途中で奥寺と小荒井の言葉と重なってしまい、キリの耳に届くことはなかった。

 「コアラくんも奥寺くんも、おはようございます」

 「キリさん、ニックネームにもくん付けする癖、なかなか治りませんね」

 そう言って笑う奥寺に、キリはちょっと眉を下げて笑った。

 「変、でしょうか?」

 「い、いえ!! ぜ、全然良いと、思います・・!」

 奥寺の隣にいた、小荒井が慌てて真っ赤になって首を振る。

 「わぁ、じゃあこれからもコアラくんって呼ばせてもらいます」

 「ぜ、ぜひ・・・・!」

 隣の奥寺が、ニヤニヤしながらよかったな、と幸せそうな小荒井をつつく。キリはそんな二人に微笑んでいて、いつもなら相変わらずキリは鈍感だなぁ、なんてぼんやり眺めているのだが、ある事に気付いた小佐野は今、気が気じゃなかった。

 「キリさん、手伝いますよ!」

 キリが抱えた段ボールを指差しながら小荒井が言う。

 「大丈夫ですよ、ちょっと会議室に運ぶだけですから」

 「で、でも会議室遠いじゃないですか!」

 わたわたする小荒井に、キリは微笑む。

 「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」

 そんなキリの言葉に、じゃあ自分もと近付いた奥寺がまず気付いた。

 「・・・・・・!」

 固まる奥寺に隣の小荒井が少し首を傾げて、彼もまたキリのある一点を見て固まった。

 「? どうかなさいましたか?」

 「・・・・キリさん、キリさん」

 見かねた小佐野が小さな鏡を取り出して、キリに見せる。

 「!!?」

 ちょうどキリの首の付け根あたりに、真っ赤な痕があったのだ。いわゆる、キスマークと言うやつだった。
 キリはばっと慌てて小佐野の鏡を覗き込み、慌てて首元に手を添える。ぶわっと真っ赤になっていくキリは、なんで、どうしてと小さく呟いている。

 「もしかして・・・・・・キリさん彼氏いるの?」

 興味津々、と小佐野がそう言ってキリににじり寄る。

 「え、えと・・こ、これは虫刺され・・なのかと・・・・!」

 あはは、と乾いた笑いとともに引き下がるキリ。しかし、今度は奥寺が必死な顔でキリに近付く。

 「彼氏いるって、本当なんですか!?」

 隣の小荒井はまだ呆然としてキリを見つめている。
 キリはどちらかといえば根っから真面目で、ルックスは良いものの彼氏がいるような素振りはなかった。

 キリは顔から火が出るのではないかというくらい真っ赤になってーー

 「ご、ごめんなさい!!」

 逃げ出した。

 「あっ、キリさん!」

 そんなキリを二人は慌てて追いかける。この時、まさかこの鬼ごっこがB級全体を巻き込むことになる事を、まだキリは知らない。











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