世界で一番優しい君 キリは優しい。 そう言えば、別役はそうですかねー?なんて首を傾げて村上は苦笑いする。 確かに彼女はすごく不器用で、真っ直ぐ言葉を伝えることが苦手で心無い言葉を吐いてしまう。だから、間違った解釈を生んでしまうのだ。 ただ、ばかじゃないのといいながら周りに世話を焼いて、ただ近くに寄っただけだからといいつつさみしいから鈴鳴支部に顔を出す彼女は世界で一番可愛くて、自慢の彼女なのだ。 「うわっ!? どうしたんですかそれ!」 防衛任務まで、時間を潰すために来馬は支部の基地で本を読んでいた。だが、学校が終わったら顔を出すと宣言したキリが一向に来ないことが気掛かりでかれこれ同じページを10分近く眺めていた。 そんな中、別役のそんな声が玄関から聞こえてきて何事かと本を閉じる。 「ちょ、来馬さん!キリさんが!」 キリ、の一言に来馬は弾かれたように立ち上がると玄関に向かう。そこには、何故か服が乱れて所々傷があるキリがぶすっと不機嫌そうに立っており、隣には同じくちょっと怪我をした村上がいた。 「キリ!?鋼までどうしたの!?」 おろおろと駆け寄る来馬をふいと避けたキリは、まるで我が家の様に鈴鳴支部に上がり込んで行く。 「・・・・別に。喉乾いた、太一お茶ちょうだい」 「え、えぇぇえー・・キリさん平気なの・・・・?」 「たいしたことないって言ってんでしょ、バカ」 去っていくキリの背中を見つめていると、村上が少しため息をついて来馬に言った。 「・・キリさん、さっき支部の近くで男相手に喧嘩してたんです」 「え!? キリが!?」 普段、血生臭い事が嫌いなキリからすればあり得ない行動にますます不安になる。 「俺もびっくりしました。相手は複数だし男だし、何だか相手は暴力ももちろん、ちょっと手を出しかけてたんで慌てて駆けつけたんですけど」 「いやいやいや! ありがとう、鋼」 ちょっと遅かったかもしれません。すみません、と律儀に頭を下げる村上に来馬は慌てて首を横にふる。 もしも村上がそこに遭遇しなければ、今頃キリはこれだけではなかったかもしれない。そう思うだけでゾッとした。 「理由はなんか、頑なに喋ろうとしなかったんで分からなかったんですけど・・」 「・・うん、大丈夫。俺が聞いてみるから」 彼女は理由もなく人とは喧嘩しない。きっと、彼女なりに重大な理由があったのだろう。来馬は村上にそう言って笑った。 「キリ」 別役から渡されたらしい麦茶が入ったグラス片手に、やはりむすっとした表情でソファに座るキリを呼ぶ。 引っ張り出してきた救急箱を机に置いて、ソファに座るキリと目線を合わせるようにして跪いた。 「・・・・こんなの全っ然平気だし。辰也は大袈裟だ」 「うんうん、俺はキリが心配すぎてキリの事にはちょっと大袈裟なのかもなぁ」 こうしてふい、とキリが目線をそらす時はだいたい恥ずかしいから。その証拠に、今のキリは耳まで赤い。 消毒液で濡らしたガーゼで傷口を洗っていけば、ちょっと痛むのかキリは顔をしかめた。それから膝や腕に絆創膏を貼り終えると、来馬はキリに笑いかけた。 「はい、おしまい。他にはどこか痛いところはある?」 「・・・・・・ない」 「そっか・・でも、危ないからもうこんなことしないでね?」 ぽんぽん、と頭を撫でてやればじわっとキリの瞳に涙が浮かんでくる。そのままとくに何も言わずに来馬はキリを撫で続けた。 「・・・・・・あいつら、馬鹿にしたから」 ボソッと俯いたキリが唐突に呟く。 「キリを?」 「っ、違う! ここを!」 ばっと顔を上げたキリは、ぼろぼろ涙を零して悔しそうに顔を歪ませていた。 「あいつら、ここを弱小支部だって・・! そんなことない! 辰也は頼れる隊長だし、鋼なんてソロでも強いし太一はあほだけど、ちゃんとチームのために動けるし・・・・!」 なのに、なのにと泣き出したキリがどうしようもなく愛おしくて、そのまま包み込むように抱きしめた。 「・・・・うん、ありがとう、キリ。俺たちのために怒ってくれたんだね、やっぱり優しいよ、キリは」 そのままとん、とん、とゆっくり背中をなでれば、キリは来馬首元に顔を埋めるようにして泣く。首元に伝うキリの涙は、とても温かくて優しい涙だな、なんて思った。 落ち着いたキリはそのまま眠り込んでしまい、防衛任務の時間が迫った来馬は優しく毛布を掛けるとさらさらとした髪を撫でた。 「行ってくるね、キリ」 帰ってきたら夜ごはんは一緒に何食べようかな、なんて話せば別役と村上はちょっと呆れたように笑うのだった。 |