Prelude


 時間、とはとても不思議なものだと思う。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるし、バイトや勉強に追われている時間はなんとなく鈍行でゆっくり進む。


 あの時なんて、全てがスローモーションに見えた。ぐらり、ぐらりと傾いていくあいつの体だとかぱたぱたと飛ぶ血しぶきだとか、全て。


 でも、その後からはまるでそんな事がなかったかのように、さっさと動き出した時間に、先に背を向けたのは自分だった。





 烏丸はゆっくり目を覚ました。

 薄ぼんやりする視界に、開きっぱなしの課題が目に入る。どうやらバイトから帰って、学校の課題をやっている途中で寝てしまったらしい。

 数回、緩慢に瞬きをした後に上半身を起こす。机で突っ伏して寝たせいか、酷く身体が痛い。ぐっと全身を伸ばすように伸びをする。

 ぼんやりする頭で、携帯を開くと時間を確認する。そして、そのまま無意識にいつも通りにあのボタンを押す。
 無機質なボタンの音が響いて、少し後からいつもの声が響く。それはひどく心地よくて烏丸は目を閉じた。


 『京介、もしかして寝てるのかな? ちゃんと食べていますか、ちゃんと寝ていますか? 頑張り屋さんなのが京介のいいところだけれど、たまにはちゃんと休んでよね。あ、あとこれを聞いたら連絡ください。じゃあ、また今週の金曜日に!』


 メッセージを聴き終わった後ゆっくり目を開けると、机に置いてある卓上カレンダーと赤ペンを掴む。そして、そのままカレンダーの金曜日に丸をつけると烏丸は満足気にちょっと微笑んだ。
 そのまま、卓上カレンダーをそっと戻すともう一度机に突っ伏す。この時間なら、あと一時間は寝れる。





 数分後には烏丸は意識を手放し、再び部屋には烏丸の寝息が響く。

 毎週金曜日のマスに幾度も丸印が書き込まれた卓上カレンダーが、月の光に照らされ静かに佇んでいた。


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