解けない呪いを、かけましょう





『キリ、お前の声は綺麗だ』

まとわりつくような、粘着質な声が耳元でそう囁いた。堪能するように体を這う手に吐き気を覚える。
体の自由はとうに奪われていてどうにもできない。唯一できるとするならば、この繰り返される悪夢のような時間をいつものように受け入れるだけ。それでも逃げたい一心で、最後の悪あがきとしてキリは目を瞑って受け入れる。いつもなら。

でも、今日は違う。

大好きな声に名を呼ばれた、めいいっぱい愛を囁かれた、自分よりも大きくて優しい手が愛おしげにキリの体をなぞったーーまだ、幸せな余韻が身体中を包んでいて。

触れないで、汚さないでーー助けて、匡貴。

そんな言葉は恐怖で消えた。





「おい」

ゆさゆさ、と肩を揺さぶられてキリは目を覚ます。
夢と現が混ざったキリはどうしようもなく触れられた事に嫌悪感を覚えて、飛び起きるとその肩の手を払いのけた。

「キリ、俺だ」

ぱちぱち、と何度か瞬きを繰り返した視界の先にあったのはあの求め続けた大きな優しい手。その手はゆっくり頬に伸びてきて、優しく包み込む。

「机で突っ伏して寝るなと言っただろ。風邪をひいたら誰が面倒を見ると思ってる」

ぎゅっと不機嫌そうに眉根を寄せて言うその言葉にキリはおもわずにこりとする。裏を返せば風邪をひいたら面倒を見てやる、ということか。
今だってわざわざキリの部屋に来てきちんと寝ているかどうか確かめに来てくれた。いつだって向けられるぶっきらぼうな優しさが大好きだった。

「何故笑う」

二宮は呆れたようにそう言うとキリに手を差し出す。キリはその手を掴むと立ち上がり、ゆっくり手のひらに文字を書く。

『匡貴が、相変わらず優しいから』

「くだらないこと言ってないで早く寝ろ。また犬飼に死ぬほどモーニングコールされるぞ」

ふと、先ほどの夢がよぎって、さっさと部屋を出ようとする二宮の腕をとっさに掴む。
まだ身体に残る、あの気持ち悪い感覚を上書きして欲しかった。でも、それを伝える言葉は声になることはない。
二宮はふっと息を吐くとキリを引き寄せる。

「携帯の電源切っておけ、うるさいからな」

降ってきた噛み付くようなキスもやっぱり優しくて、キリはそっと目を閉じた。



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