打ち上げ花火 [ 3/5 ]
*ちょっとだけ未来のお話。
「ねぇねぇ、真史さん。花火はどこからあがるかな?」
すっかり食事の準備を終わらせて一息ついてれば、そんなキリの声と共にふわっと夏の夜独特の少し蒸した風が部屋に舞い込んでくる。
すっかり深い群青色の夜の空を背伸びして見上げているキリの背中ちょっとだけ微笑んで近づく。
「そうだな、川のあたりから上がるからあのへんだな」
キリを後ろから抱き込むような体勢で指をさす。
「そっか! もうちょっとで始まるけど慶ちゃん達なかなか来ないねぇ。ごはんもちゃんと作ったのにね」
くるんと振り向いて忍田と向き合うとキリはそう言って笑った。そんなキリの頬をちょっと撫でればキリは照れくさそうにする。
「本当に来るのか?」
「うん、慶ちゃんと公ちゃんでしょ、柚宇ちゃん、陽介くんと駿ちゃんと嵐山隊のみんなもくるって・・だめ、だったかな」
「い、いや、ダメとかじゃない。キリが楽しいならそれでいい」
「いつもワガママでごめんね」
そう言って顔を近付けて額をこつ、と合わせた。キリは甘えるように腕を忍田の首に回すとくすくす笑った。
「・・ただ、皆がくるとキリは皆のお姉さんになってしまうから」
「じゃあみんなが来るまでは、真史さんのだねぇ」
「あまり可愛いことをいわないでくれ」
そのまま優しく口づける。堪能するように何度か角度を変えてキスをすれば、キリが忍田の頬を優しく包んでやんわり制止する。
「っん、だめ、真史さんこうするとどんどん止まらなくなるでしょ」
「もう少しだけ、」
「そんな顔してもだめ。もう少しって言って結局止まらないでしょ? その辺、模擬戦の時の慶ちゃんと一緒なんだから」
「・・参ったな」
すっかりキリのペースに流されていることに苦笑しつつ、額にキスを落として体を離す。
と、同時に大きな音と共にぱあ、とあたりに光が満ちる。
「わあ・・!」
「始まったな」
大きく打ちあがる花火にキリは目を輝かせる。花火の音に混じってインターホンも聞こえ、どうやら太刀川たちもやってきたらしい。
「あっ、慶ちゃん達来たね」
する、と忍田の腕から抜け出してキリが玄関へ向かう。なんとなく名残惜しく感じていればふと、キリは立ち止まって忍田に振り返るとちょっと笑った。
「・・来年は二人だけでみよっか」
二人だけで、なんてこの一言だけで十も年下のキリに負けてしまう。案外自分も簡単な生き物になったもんだ、と思いながら忍田はそうだな、と笑った。