浴衣 [ 1/5 ]

 「林藤さん!」

 そう声を掛けられ肩を叩かれる。振り向けば青年がいた。ちょっと考えて、あぁ、そうだ同じクラスの、とキリが呟けば青年は笑った。

 「そうそう。ごめんね、林藤さん呼んでもなかなか気付かないから」

 肩にいきなり触れたことへの謝罪と気付いて#名前#は曖昧に笑う。

 キリは記憶を取り戻した後、林藤に養子として引き取られた。
 すっかり西条という苗字が定着してたこと、そしてその苗字で呼ばれることはないことに少しばかり寂しさが湧く。ただ、林藤に引き取られた事がいやという訳ではない。

 「ごめんなさい、ちょっとぼーっとしてて。えっと、何か?」

 「何かって、まぁ、特に何も…かな。ただ、林藤さんがいたからつい声かけたって感じ?」
 
 そう言って彼は人の好さそうな笑みでにかっと笑う。

 「いや、さ。林藤さんってみんなと距離置いてる気がしてさ。馴染みにくいのかなぁってちょっと余計なおせっかいを」

 「うーん、そうかなぁ? みんなそう感じてるなら申し訳ないなぁ。特にそういう訳じゃないんだけど」

 これに関しては散々木崎にも、

 「もう少し、玉狛のやつ以外にも話してみろ。まだ他人が怖いのは分かるが、関わる努力をしろ。自分で世界を狭めるなよ」

 とやんわり注意されているのだが、キリには玉狛のみんなの中に居れることで十分だった。

 「あ、そうだ。林藤さん、来週浴衣着れる日だって知ってる?」

 「え?」

 「来週は和服を体験しようって学校の一環で浴衣着て講義受けられるんだってさ。あの嵐山さんも着るっつーから今から学校内がうるさいのなんのって」

 「へぇ! じゅんも!」

 きっと彼ならそつなく着こなすのだろうな、とキリは笑った。初めて見るキリの笑顔につられてシグレも笑う。

 「林藤さんもどう? みんなで着ようぜって話が出てるんだけど」



 「ただいまぁ」

 見慣れた玉狛の基地の玄関の扉を開けてそう言えば、玄関で待っていたらしい陽太郎が雷神丸に乗ってこちらへ来た。その後ろには木崎がいる。

 「キリ! おまえ、へいきだったか!?」

 「悪いな、今日は防衛任務とかぶって迎えに行ってやれなくて」

 そんな二人にキリは笑った。

 「大丈夫だよ。それに、学校の行き来くらい一人でできなきゃ」

 「そうか」

 サンダルを揃えて脱ぐと、カバンを持ち直して陽太郎と木崎の隣に並んでリビングへと歩く。

 「あ、そうだ。れーじは浴衣の日って浴衣着るの?」

 「・・あぁ、あれか。いや、特に考えてないな。#名前#は着るのか?」

 「うーん、特に考えてなーー」

 それと同時にがしりと両肩を後ろから誰かに掴まれる。

 「浴衣・・・・? キリちゃんが・・・・・・?」

 と右肩を掴む宇佐美。

 「浴衣・・・・? あんたが・・・・・・?」

 と左肩を掴む小南。

 「え、あ、まだ決まった訳じゃ・・・・」

 「レイジさん、ちょっとキリちゃん借りるよ!」

 「え、え、えぇぇ〜!?」

 そう宇佐美は言うと#名前#を部屋へ半ば強制的に連行する。

 「あまりいじるなよ。迅に怒られない程度にな」




 迅はくあっと欠伸をした。

 昼一杯の防衛任務を終えて、ぐうと鳴る腹をさすりつつ基地へと戻る。視えた未来から、キリは一人で基地に帰ったんだろうが無事だろう。

 「レイジさん、お腹すいたー」

 そう言いながら基地へ入りリビングに入る、と。

 「あ、悠一お帰り!」

 視界に入ったのは浴衣を着た幼馴染みだった。

 「・・え? は、はぁ!?」

 慌ててキリに駆け寄って唖然としつつ上から下まで眺める。濃い紫の布地に淡いピンクや白の花柄があしらわれ、髪は綺麗に下の方で団子状にまとめられていた。帯と合わせたのか、髪飾りは少し濃いめのピンクの大きな花だった。

 「浴衣はアタシ、髪型はこなみ作でーす」

 と宇佐美がキリを迅の前におしやる。

 「まぁ、あたしにかかればこれくらいね!」

 と胸をはる小南の横で空閑が、

 「いや、こなみ先輩がというよりもともとキリが可愛いからだろ」

 と首を傾げ、鳥丸も頷く。

 「まぁ確かに」

 「なんですって!?」

 穴が開くのでは、というほど迅に見つめられてキリは真っ赤になる。

 「へ、変、かな・・・・?」

 「ち、違う違う! いや、なんていうの、えーっと」

 珍しく狼狽える迅にキリはこてん、と首を傾げる。迅は頬を掻きながらちょっとあー、とかうーん、だとか唸った後に、がばっとキリを抱きしめた。

 「・・・・すっごい可愛い、めちゃくちゃ、いい」

 耳元でそうぽつり、と呟かれてキリはさらに真っ赤になる。

 「あ、ありがとう」

 いつのまにか周りのメンバーは退散していて、リビングには迅とキリだけだった。ぎゅっと迅の背中に手を回せば、こつりと額が重なって視界がぶつかる。

 「キリ・・・・本当に、綺麗」

 ちゅ、と軽くキスされてなんだかくらくら目眩がする。ばくばくとうるさい心拍は、迅に聞こえてないだろうか。大丈夫だろうか。

 「ん、悠一がそう言ってくれるの、一番嬉しい」

 思わずそう笑えば、迅もまた笑うのだった。



 (で、大学にそれ来てくの?)
 ((うん、じゅんも着るしれーじも着るんだって!))
 (・・・・じゃあその日は何が何でもキリの送り迎えはおれがしなきゃな)
 ((??))











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