01
あの人直々にスカウトされてからというもの、ボーダーの資金調達という仕事には慣れてきた。
相手の仕草や態度を見ればだいたい此方がどういう態度をすればいいのか分かるのだ。いや、分かってるはず。
「・・はい?」
交渉相手の思いがけない言葉に、唐沢克己は思わず聞き返す。目の前の相手は表情を崩すことなく、再びこう言うのだ。
「・・ボーダーの支援はするし、開発援助もできるだけしよう。ただし、娘をあなた方が引き取る。そういった条件つきです」
「いやいやいや、そんな・・」
しかし、目の前の商談相手は至って真面目な表情で続ける。
「それがのめないのならば、この話はナシということです」
困った、とガシガシと頭を掻く。
こんなに交渉相手の前で取り乱したのはいつ以来だろうか、とどこか他人事のように考えつつ目の前の契約書を見る。ーー契約不成立にはしたくない金額が、そこには堂々と記されていた。
「・・あのですね、ボーダーは割と男性隊員の方が多くてですね・・」
ーー親としてはどうなんですか。
この言葉はあまりにも不謹慎だと思って飲み込む。
「万が一、何かあった場合にも支援は打ち切りですが」
早く認めろ、契約しろと言わんばかりに男は唐沢をまっすぐ見つめる。先に、白旗を上げたのは唐沢だった。
あれだったら、女性隊員かオペレーターに面倒を見てもらえばいい。
(城戸さんには怒られるな、こりゃ)
「分かりました。その条件、のみましょう」
「良かった。この三門市にいる私自身もボーダーの活躍には期待しております。支援は、いくらでもいたします」
そりゃどうも、と半ば諦めがちに唐沢は男に頭を下げた。
(・・まぁ、こういう人の子供はだいたい問題児ではなさそうだよな)
いかにも生真面目そうな男は自分より十くらい年上といったところだろうか。蛙の子は蛙、という言葉を思い出しつつ唐沢は訪ねる。
「そして、その娘さんというのは?」
「今、ご案内いたします」
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