恋は思案の外 | ナノ

01




 「・・それってさ、つまりサイドエフェクトじゃね?」

 「は?」




転校から数週間。ようやく慣れつつあるキリは、いつものように教室で出水、米屋と共に昼食をとっていた。弁当箱の蓋を開け、今日も上出来だなと思いつつおかずを口に運ぶ。
 ふと、出水がきり出した。

 「そーいや、なんでキリって近界民によく追われんの?」

 「は? なんでいきなり」

 「いや、初めて会った時そう言ったなーって思い出した」

 そう言ってエビフライを頬張る出水に、米屋はパンを飲み込み、キリを見る。

 「何ソレ、キリって実はただ者じゃないとか?」

 少し好戦的な目をした米屋を睨む。そうだったら戦いたいと言わんばかりだ。

 「ばっかじゃないの、そんなんだったら、あの余裕面のところにいないわよ」

 「余裕面?」

 「なんでもない、こっちの話」

 慌ててキリはそう言って弁当に視線を戻す。この2人には唐沢の家に居候していることを話してはいない。
 唐沢自身がボーダーでなかなかの地位にいること(私はまだ信じてない)と、女子高生と家族でもない三十路男の家に居候ーーはなかなか世間におおっぴらに出来そうもない事実だからだ。

 「キリってさアレだ、なんかスッゲー能力あったりする?」

 そう問いかける米屋に、出水が勝手に答える。

 「なさそうだよなーーっておいコラ!」

 「勝手に答える出水が悪い!」

 ひょいひょいと彼の手を避けてエビフライを奪う。その様子を、米屋はじっと見ていた。

 「あっ、でも、相手の感情はよくわかったりする」

 「・・というと?」

 「なんか、顔を見て今悲しいのかなとか嬉しいのかなとか・・だいたい。あたるのよ、これ」

 「・・もしかしてさ」

 そういって米屋は少しキリによる。視界の端で、彼の右腕が微かに動くのが見えた。

 「!」

 キリが慌ててその場から身を引けば、ひゅん、と米屋の拳が先ほどまでキリがいた場所をかすめる。思わずしゃがみこむキリを見、出水は軽く米屋の頭を叩いた。

 「あ、あぶな・・!」

 「おい槍バカ、なにしてんだよ」

 「・・やっぱそーだわ、お前、表情じゃなくて筋肉の動き見えてんだよ」

 「は?」



 そして話は冒頭に戻る。キリは立ち上がって席に戻りつつ、出水に聞く。

 「その、サイドなんちゃらって何?」

 そう言いつつキリの弁当から卵焼きを取ろうとする出水を睨む。が、本人はお構いなしに卵焼きを自分の弁当に持ち去っていった。

 「トリオン能力が高いと稀に身体や感覚器官に影響を及ぼすんだけど、それによる超能力」

 「と、とりおん・・?」

 聞いたことのない単語にキリは首をかしげる。そんなキリにからりとわらって米屋が言う。

 「まぁ、簡単にいうとすっげー能力」

 「耳がすげー良かったり、未来が見えたり・・ってのがボーダーにいるぜ」

 「さしずめ、キリは目がいいってサイドエフェクトってところか」

 「へぇぇ・・!」

 詳細はよく分からないが、この二人が言うのならばすごいのだろう。目を輝かせるキリに、ふっと笑って出水が提案した。

 「分かった、キリ今日ボーダー本部来てみねぇ?」





 「あ〜、おかえり〜。そっちの子は?」

 防衛任務があるらしい米屋と別れ、出水と二人でボーダー本部へと向かう。出水につれられるままにとある一室に入れば、たれ目がちな少女がゲームをストップさせ、二人に笑いかける。

 「ただいま柚宇さん、この子が西条キリ。で、この人は国近柚宇さん」

 そう紹介されてキリは少し頭を下げた。

 「あぁ〜、この子が例の?」

 「例・・?」

 そんな二人の会話を遮るように出水は切り出す。

 「柚宇さん、トリオン測るやつってどこやった?」

 「それね〜、鬼怒田さんにかえしちゃった。返却期間わりと過ぎてたんだよね〜」

 怒られちゃった〜と言いつつゲームを再開する国近に反省の色は見られない。

 (なんだか・・普通っぽい?)

 唐沢から少し話は聞いていたし、三門市に住んでいる事もあってボーダーはよく知っていたが、どことなく厳格な軍隊のようなイメージを持っていたので少し拍子抜けしてしまう。

 「ってことは、開発のとこか〜・・鬼怒田さん怒ってそうだしなー・・」

 「その鬼怒田さんって怖いの?」

 目的のものがなかったらしく、部屋をでる出水についていきつつ質問する。

 「まぁ、怖いっていうかめんどくさいというか・・」

 「?」

 歯切れの悪い出水にキリは首を傾げるのだった。

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