染めてよフリージア | ナノ



今日はとっても大切な日。だからはやくあいつに会いたくて、ベッドから飛び上がり、急いで身支度を整えて、学校へ向かった。その途中、あいつの後ろ姿を見つける。どきん、心臓が鳴った。


「ひ、ひかる、おはよっ」

「……っす」


ゆっくりとふりかえって、あいさつを返してくれたけど、眠たそうだし、低血圧だから多分機嫌はよろしくない。不機嫌まるだしの光の少し斜め後ろを歩きながら、横顔を盗み見る。どきどき、やっぱり、かっこいいなあ。こんなにかっこいい光が、どうして私なんかを好きでいてくれるのか、分かんないけど、でも、わたしは幸せだよ。


「ねえ、光」

「なんすか」

「今日放課後ぜんざい食べに行こ」

「ええすけど」


返事はそっけないけど、本当は嬉しいんだよね。だってぜんざい大好きだもん。少し笑った気がしたから、ちょっとは機嫌もよくなったかな。光が嬉しいと、わたしも嬉しいよ。光は無表情なときが多いけど、ほんとはよく笑ったりする。それは、わたししか知らないことで、そのたびにわたしはまた、幸せになるのだ。


「…なあ」

「ん?」

「横、歩けや」


ぐい、と手を引っ張られて、よろめいたけど、きゅん、ときめいた。なんで横歩かへんねん、って言いながら、そのまま手を繋いで歩きだす。ああ、やっぱり、光のこと大好きだなあ。胸がぎゅうっとなって、なんか泣きそうになった。


「光、誕生日、おめでとう」

「…あ、今日」

「忘れとった?」


ぎゅ、光の手を握った。そしたら光も握りかえしてくれた。君の生まれた日に、わたしはこうして幸せで、隣に、側にいれて、嬉しい、です。そう言えば、はあ?なんて言って、ちょっと照れたみたいだ。えへへ。


「なんや今日の先輩きしょいっすわ」

「えっひど!」


けらけらと笑いあって、手を握りあって、そしたら光が立ち止まった。わたしも一歩先で立ち止まる。なに?なんて、聞けなかった。光の目見たら、なぜか動けなかった。逸らせなかった。動けないわたしに光が近付く。


「好きや」


ちゅ、唇と唇が触れるだけだったけど、でも、わたしの心臓はもう、もちそうにないくらいどきどきしてる。光が笑った。


「普段はこんなこと言わんけど、今日だけは言ったるわ」

「な、にを」

「…俺も、アンタと居れて、幸せやで」


つい、涙がぽろりとこぼれた。それを光が、あほやなあ、なんて言って、ぬぐってくれた。こんなにわたしを幸せにしてくれて、ありがとう。あなたの一言が、わたしを幸せにするんだよ。光、好きだよ、だから言わせて。


「生まれてきてくれて、ありがとう」



100714 企画「光誕」様提出
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