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スターともなると仕事量は確実に増え、アクションもよりハードなものを要求される。正直何度も挫折しそうになったし辞めたいと本気で考えたこともあったが、それでも俳優という仕事は楽しかったしやりがいもあった。

しかしある日の事故を境に生活は一変する。全身に怪我を負い所々は骨折。更には俳優にとって命とも言える顔にまで傷をつけてしまい、俳優業を続けることは不可能となってしまった。それまで仕事一筋で生きてきたハチクにはあまりにも酷なことで。これから何をすればいいのか、どう生きればいいのかもわからず自暴自棄になりかけていたところに、アデクはやってきた。この時既にアデクはチャンピオンでそれなりに有名人であったが、ハチクはポケモンに疎くてっきりまた同情の目を向けるだけ向けて大した慰めもできず帰るだけの同業者だと思っていた。正直うんざりしていたので適当に一言二言交わすだけですぐに帰ってもらおうと考えていたハチクに対し、アデクはこう言った。


「ポケモンは好きか?」


どこまでも澄んだ彼の瞳はまっすぐにハチクの目を捕らえ、にかっと少年のような無邪気な笑みを浮かべた。処理能力が機能していないぼんやりとした頭で、彼には笑顔が似合うな等と全く別のことに思考が向く。ポケモンは好きか。アデクの質問は実に単純なものなのに、すぐに答えることができなかった。言葉に詰まり、まるでどこまでも見透かしているようなアデクの瞳から思わず目を反らす。


「ポケモンは、勿論好きです。しかしそれがどうしたと言うんでしょう」


当然の疑問を口にする。何の脈絡もなく唐突に質問されたのだ。意味がわからなくて当たり前だろう。ハチクの言葉に対しアデクは先程と同様に笑った。まるでハチクがそう答えるとわかっていたかのように、表情を崩さず。


「よしお前さん、ポケモントレーナーにならんか?お前さんなら立派なトレーナーになれるだろう」


今度はポケモントレーナーになれとは。成程先の問いはこのためか。
ポケモントレーナーには今までに何度も会ったことがあった。ポケモンと共に雨の日も風の日もどこまでも旅し、時にはバトルもし互いに鍛え合い信頼関係を築いていく。リーグ出場を目指す者、ブリーダーなど育てることに専念する者など様々だが、ポケモンを好きだというのは皆一様であった。あるトレーナーが言っていた。旅中で辛いことや悲しいことがあっても、ポケモンがいるから頑張れる、みんなが支えてくれると。
どん底に突き落とされ絶望の縁に立たされていたハチクに一つの光明が差した。自然と笑みがこぼれる。笑ったのは久しぶりだった。迷うことはない。元よりもう俳優には戻れないのだ。なら後は、前に進むのみ。


「お話、もっと詳しく教えてください」


差し出されていたアデクの手を握り返すと、彼は今度は豪快に笑った。









人生を左右する転機の日


20120402 / Bicky's
















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