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ホワイトは夢を見た。
自分が暗闇の中で子供のように泣い崩れている夢を。

どうして泣いていたのか、ぼんやりとした記憶を巡らせてみるけれど、思い出せない。こういう時夢って厄介ね、なんて呟いて彼女は肩を落とした。



ホワイトがブラックと別行動をし始めてもう一週間が経とうとしていた。トレインに乗ってからはひたすらバトルを重ねる日々を送っている。最初は容赦なく攻撃してくるトレーナーを相手に手も足も出なかったが、少しずつだけれど白星をあげられるようになってきた。
今まで、『勝つ』ということがこんなに難しいなんて思わなかった。自分で闘うようになって初めて、ジムリーダーや四天王、はたまたチャンピオンまで倒しリーグ優勝をしようとしているブラックのすごさが分かった気がする。
彼は自分が思っていた以上に強く、頼もしい存在だったのだ。彼に野生ポケモンから助けてもらった記憶が蘇る。別れたから気付く大切なことの多さに胸が苦しくなった。



それから何日か経ったある日。また、ホワイトは夢を見た。
今度はハッキリと覚えている。ライモンシティの溢れる人波の中、よく知った顔がこちらに向かって歩いてくる。ブラックだ。考えるよりも早く彼女は名前を呼んだ。だが、彼はそれに気付かない。驚くホワイトのことなどまるで見えていないようで。もう一度名前を呼ぶ。気付かない。ブラックの姿が視界の端に消えかける。
「ダメ!行かないでブラックくん!!」



アタシに、気づいて。



そこで目が覚めた。身体中嫌な汗に包まれていて気持ち悪い。おまけに涙まで溢れ出てくる。こめかみから汗か涙か分からない雫が頬を伝った。

「どうして、こんな夢を。」
彼女の悲しい声は静まり返った空間によく反響した。
そして、思わず言葉にしてみてようやく気付いた。いつの間にか彼が隣にいてくれる安心感が心地よいものになっていたことを。少し離れただけなのにここまで脆く崩れてしまうくらいとても大切なものに。

「ブラックくん……」
いつも元気に笑いながら自分に話しかけてくるブラックを網膜の裏に映しながらホワイトは彼と過ごした時間を思いだす。別れてから、ふとした瞬間に思い出すことはあったけれど、自分からこんなことするのは初めてだ。どれだけ淋しいの、と自嘲気味に笑う。
でも、そんな彼女の感情とは裏腹に瞳からは涙が流れている。別れたときに、彼が必死に叫びながら言ってくれた言葉が脳に響いて忘れられなかった。


「ブラックくんに、会いたいなぁ。」
嗚咽混じりに零れた言葉は、誰にも届くことなく消えていった。


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小梅様より頂きました。
辛いけど胸キュンなブラホワ…やっぱかわいい。

小梅様ありがとうございました!
















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