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久しぶりにデントに会って気づいたことがある。今まで一度も浮いた話を聞いたことがない彼が、一人の少女をずっと目で追いかけているのだ。本人は気づいていないようで、そのことを仄めかしても違うの一点張り。しかし俺と話している時も無意識なのか視線が彼女に向いていて、会話が噛み合わないこともしばしば。兄弟として生まれた時からデントと過ごしてきたが、これは重症だ。


「おいデント!話聞いてたか!?」
「あっ、ご、ごめん聞いてなかった」
「は〜どんだけ入れ込んでんだよ…」
「何のこと?」
「知るか!」


本人無自覚のデントが夢中な当の少女、アイリスはといえば、暢気にキバゴと遊んでいる――かと思えば此方、いやデントだろう。話の内容が気になるのかちらちらと盗み見ては様子を窺っている。なるほど、どうやら重症なのはデントだけではなかったらしい。


「なぁデント」
「何だいポッド」
「お前の恋路だから俺は何も言わねーが、見てるこっちがいじらしいから早く伝えてこい」
「なっ、だから違うって!」


尚も否定するデントに頭を抱える。鈍感もここまで来たらもはや病気ではないだろうか。勿論兄弟として彼の恋は応援しているし静かに見守りたい気持ちもある。しかしこのままでは進展すらしないだろう。だからこうして助言しているのに、何処まで鈍いんだ。


「ま、頑張れよ!」
「だからっ」


デントを放って置いてアイリスの元へ向かう。俺が思うに恐らく彼女も自分の気持ちに気づいていないだろう。先程からデントを見ては頭を振って顔を赤らめていたし、あちらも無意識なのだきっと。


「なぁお前、デントのこと好きなのか?」
「は、はぁ!?いきなり何言ってんのよ!」
「やっぱりか…」


真っ赤になって否定しても何も説得力がないということを二人は理解した方がいい。そして予想通り無自覚だった。去り際に一応応援の言葉を残しておいたが、果たして二人に進展はあるのだろうか。
俺がジムに戻ってからのことを恋愛とはかけ離れた位置にいるサトシにダメ元で任せてみる。


「二人のこと見守ってくれよ、任せたぞサトシ」
「うん?よくわかんないけどわかったぞポッド!」


本気で心配になってきたが、とりあえずこの一行に幸あれ。







言ってしまおうか


20111215 / 嘘つきピエロの憂鬱


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りり様へ誕生日プレゼント。


















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