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10月31日。今宵、お化けたちがあなたの家のドアをノックするだろう。コンコン。ほら、誰か来た。お菓子は持ったかい?でないと―――。


「チェッレーーン!トリックオアトリートー!」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するわよ!」


予想通り、幼馴染みニナとベルが僕の家に押し掛けてきた。イベント好きのこの二人のことだから絶対何かしらしてくるだろうと思っていたが、しっかり仮装までしてなんと気合いの入ったことか。
勿論悪戯対策は完璧だ。この日のために態々スーパーまで行ってお菓子を大量に買ってきたのだから。この二人、特にニナからの悪戯なんて想像を絶するので御免被る。


「はい、トリート」
「わぁいお菓子お菓子!ありがとうチェレン!」
「これで満足したら帰ってくれないかな」
「は〜これだからメガネ男子は…ハロウィンをわかってないねぇ」


メガネ男子ってなんだよ、と文句を言う前にニナに口に指をあてられ止められる。そして片方の指をちっちっと得意気に振り彼女は自信満々に言い放った。


「ハロウィンと言えば、悪戯一択でしょーが!」
「トリートはどこいったんだよ!」
「お菓子なんて貰って当たり前でしょ?それじゃあつまらないじゃない!お菓子の準備をして油断しきってるやつに悪戯するのが面白いんでしょーが!」
「あ、悪魔だ…」


そうだったニナはこういうやつだった。お菓子をあげるだけでこいつが素直に去るはずがない。僕としたことが油断した!ここはうまく話を反らして帰ってもらうしかない。


「と、ところでトウヤはどうしたのさ」
「トウヤならねぇ、ニナが悪戯しようとしたら、」
「わーわーストップベル!言わなくていいから!」


顔を真っ赤にして遮るニナの反応にだいたい想像はついた。流石トウヤ、ニナの扱いは慣れてるな。一体何をされたのかは気になるところだが、さてうまく話に乗ってそのままお帰りを願おう。


「と、とにかくまずは擽りの刑よ!さあ、覚悟なさい!」
「キャラ変わってるぞニナってちょ、ま、あは、はははははやめ、ははは!」


僕の願いも虚しくやはりニナには無効だったようでご覧の有り様だ。息も出来ず転げ回っていい加減酸欠で倒れる間際で漸く解放された。危うく意識が飛ぶところだった。呼吸を正しながらニナを睨む。こいつ、僕を玩具にして楽しんでいるに違いない。


「あー楽しい!こうして普段クールなやつが笑い転げるのって本当愉快よね!」
「こ、の、野郎…はぁはぁ」
「ぶー、あたしも混ざりたーい」
「あ、ごめんねベル。もちろんベルもチェレンを好きにしていいからね」
「ちょっと待、」
「本当!?んーとね、どうしようかな…」


まずい。こんな調子でまたニナのような悪戯なんてされたら体が持たない。しかし逃げようにも先程の攻撃で体が思うように動かせない。そうこうしているうちにベルが何かを思いつき嬉々としてこちらに近づいてきた。
ベルは時々ニナ以上に予想がつかない行動をする。身構えた僕を気にも止めずベルは僕に顔を近づけてきた。なんだこれ、近い、近い!抗議の声をあげる前に口は同じそれによって塞がれた。一瞬の出来事で呆けている僕と目が合うなり悪戯っぽい笑みを浮かべるベル。


「えへへ、奪っちゃったー」
「なっ、ベル!君はなにしたかわかって、」
「嫌がることをするのが悪戯でしょ?違うの?」
「そ、それは」
「(なるほどそう来たか…侮れんベル)嫌じゃなかったんでしょ、チェレン?」
「っ、そういう問題じゃないだろ!」


嫌じゃないさ、勿論。僕はベルが好きなんだから。誰にも告げたことないけど(何故かニナにはバレているが)。でも、でも。ベルにとってはただの悪戯で、何の特別な感情もない。わかってるのに、どうしてこう顔が熱いんだ。


「まだまだ先は長いわね…」
「ふぇ、ニナ何の話?」
「ううん、何でもない。ねぇチェレン?」
「ほっといてくれ!」


ハロウィン、今宵は悪魔たちのパーティー。お菓子を持っていても油断することなかれ!







甘いお子とかわいい


20111020 / 嘘つきピエロの憂鬱 / ポケハロ提出



















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