「寒い」

「冬やからなぁ」


本日何度目かの応酬、寒い寒いと苛立ち気にマフラーに顔をうずめる横で白石は苦笑いを零した。


「そんな寒い言うても暑くなる訳ないで」

「寒いもんは寒いんやからしゃーないやろ」

あー、冬なんて来んでええのに。
確かに寒いと連呼した所でどうにかならないことなんか分かっているが言わずにはいられない。今日に限って手袋忘れるし、最悪や。

手に息を吹きかけ暖をとっていると、フワリと何かが視界に入った。


「…これで、少しはマシになるやろ?」


微笑みながら彼は私の首に自分のマフラーを巻いてくれた。既にマフラーをしていた状態で更にマフラーなのだから不格好この上ないのだが、彼の優しさに胸が暖かくなる。


「でも、これじゃ白石が寒いよ!」

「俺は大丈夫や。今日そんな寒くないと思っとったし、鍛えてるからな」


優しく目を細める彼の唇は薄く紫色に染まっている。そんな状態で寒くないなんて嘘に決まっているのに。


「…ありがとう」


お礼を言うと何故かじっと顔を覗かれる。
訳も分からず何となく視線が逸らせないまま見つめ合う形になってしまう。


「…なに?」

「お前…、なんや今日唇少しかさついてへん?」

「ああ、これね。今日リップ忘れてしもたんよ」


白石にしてはデリカシーの無いこと言うなとぼんやり思っていると気付けば白石の顔がすぐ近くにあって、




軽い音がして、離れ際に唇をペロリと舐められた。



「…女の子なんやから、もう少し気ぃ遣わなあかんよ」


顔にどんどん熱が集中していく。思考回路はパニック状態。
行こうと差し出された手にただ従うことしか出来なくて。

あんなに冷たかった風が今はすごく心地良かった。



冬の寒さが心地良い

0111






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