「さくらーふぶーきのーさらいーの」
「いや、それは卒業ソングなのか?」
怠い卒業式には出なかった。
何してたんだかもわかんねえ生徒会長の話で号泣する女子もうざいし、こんなときでも壇上に上がる女子のパンチラ期待する男子もバカバカしい。
俺は教室がざわついてる間に抜けてきた。
やっぱりこういうときは思い出というか、思い入れがある場所に行きたくなった。
校舎をうろうろして辿り着いたここは、在校生の送る歌が遠くに聞こえる剣道場。
俺とあいつが最も一緒にいた場所だ。
当たり前に誰もいないはずのここにはあいつがいて、サライなんて歌ってやがった。
「おっす、とっしー!卒業生が式サボっちゃダメでしょー」
「よく言うよな、教員の癖にサボってこんなとこいやがって。あと、とっしーやめろ」
「良いの良いの、新米教師なんていたっていなくたって一緒だから。卒業生受け持った授業もないし」
今年度入ってきたこいつは、剣道の有段者で新任ながら剣道部の主顧問になった。
ここではそんなやつと、遅くまで試合のメンバー考えたり、メニューを考えたり、実践したりした。
「んだよそれ、一応送り出そうって気持ちはないのかよ」
「あるある、だから探しにきたんじゃん、一番送り出したいやつ」
式にいないし探したんだから、へらっと笑って俺との距離を縮めたやつは、俺の胸に飛び込んできた。
「卒業おめでとう、歳三。私、ずーっと大好きだった」
俺から離れれば、優しく笑う頬には涙が流れてて。
不意に抱きしめた。
「もっと早く言えよ。俺も好きだ、さら」
「名前、知ってたんだ…」
「ばーか、好きなんだから知ってんに決まってんだろ」
ずっと惹かれてたんだ。
強いことも真剣なとこも、準備室で居眠りしてるとこも、全部好きだったんだ。
「夢、みたい…私だけ馬鹿みたいに生徒好きになっちゃったって思ってた…」
「俺だってただの生徒だと思われてると思ってた」
これからは恋人ってことでよろしくねと、嬉しそうに笑うさらにつられて笑った。
ずーっと大好きだった