「いやー、参ったぜ!今月5万もすっちまってるなんてな!」
「ったく、単勝買っときゃマイナスにはならなかったってのに、」
「大体あんなに両親強いんだから少しぐらい勝ってもいいだろ…」
「あー!くっそ!って、おい左之、そろそろ会話に入ってくれねぇか?」
最後の数問が決まらなくて教科書をパラパラめくってるといつ来たんだか、新八は隣の席に座って会話をしろ、と。
「あー、またすっちまったか。数学でなんとかすればいいじゃねぇか、確率、この前俺の生徒も勉強してたぜ」
「競馬は高校でやる数学なんかじゃ解けないくらい奥深いもんなんだよ、その日の馬のコンディション、芝状態、天候、その全ての条件をだな、……おい左之、なんだそれは」
「は?どれだよ」
主語がねぇんだよ、新八は。
ツラ貸せっていう不良みたいな態度で左手貸せ!、と持ち上げられた左手をまじまじと見て、ようやく結婚したんだなって。
…面倒くせぇことになった。
「おい!何で言わねぇんだよ!大親友のはずじゃねぇか!そこは俺のくだらねぇ競馬の話割り込んで報告すべきことだろ!」
「ま、まぁ落ち着けって。…報告遅くなったけど結婚した。でも、新八が思ってる奴とは違うから」
「は?それ、どう言うことだよ?早苗ちゃんじゃねぇって、お前浮気してたのか!?」
胸倉掴みかかる勢いの新八は、一呼吸した。
大学で知り合いだった元カノとは新八も仲が良かった。
多分新八の中では3人で飲んだ何ヶ月か前の印象なんだろう、俺たちの関係は。
「ふられたんだよ。あー、もういいだろ?思い出したくないんだ」
でも…思い出したら、なんなんだ?
思い出したところで、俺にはもう名前がいる。
「じゃあお前、嫁さんのこと好きなのかよ?」
好きだ、でもなければ否定も口にできなかった俺は最低なやつなんだと再認せざるを得なかった。