自分のマンションの最寄り駅に着いたときは日も沈みかけていて、駅前のスーパーで買い物を終える頃にはもう辺りは暗かった。
やっぱり秋になると夜は冷えるなぁ、通りすがった公園から男女の怒鳴り声が聞こえたのはそんなとき。
「だからお前には仕事辞めて、家庭に入ることを考えて欲しいんだよ!」
「…あなた勘違いしてるわ。結婚する気なの?私は左之助と結婚なんて考えてない!」
「なっ!……もういい、終わりにしよう」
「そうね、悪いけど冷めた」
まるでドラマじゃん。
公園の垣根から立ち止まって見ていた私は家政婦的な。
ってかいい大人が…なんて考えてると眉間にシワを寄せた女の人が小走りで私の横をすり抜けて行った。
ついでに肩なんてぶつかったけど、それどころじゃなかったみたいにすぐ見えなくなった。
公園の入り口から見た男の人は、ベンチに座ってポケットから出した煙草を吸うわけでもなくただ眺めてた。
子供出来ても結婚できない人もいれば、結婚できるけどしない人もいるんだねー、養ってもらうって素敵やん。
……うん、養ってもらおう。
「結婚しようよ」
「……はぁ?」
男の人は私の呟きに、煙草から歩み寄ってくる私に視線を移してきょとんっとした。
「…あんた、誰だよ」
「いやね、私もさ、ついさっき彼氏と別れたんだけどね、お腹にはさ子供がいるの」
「……はぁ、……はぁ!?そんな格好で冷えるだろ、馬鹿か!」
けろっと言った言葉を一度は流したけど、意味を理解したのか慌ててその人は上着を私に掛けた。
掛けたっていうより、上着で覆った。
ちなみに寒くはない。
「なんか高そうな香水の匂いする…」
「いや、そんなことどうでもいいだろ。体冷える前に帰れよ、送るから」
煙草をワイシャツのポケットに仕舞うと、ほらどっちだ?と遠くで声がする。
早っ、もう出口にいるし。
「ってか、冒頭の台詞、完璧無視されてるよね。私が嫁さんになってあげるよ。すでに子供もいるし、7ヶ月後にはパパになれるよ」
私は養って貰いたいし、あなたは家であったかいご飯作ってる健気な嫁が欲しいんでしょ?そう問えば、大笑いして、あんた面白いなって。
「そんな簡単に結婚して上手く行けば良いんだけどな…」
「大丈夫でしょ。昔の人は顔も知らん人と結婚したってよろしくできたんだから」
「よろしくってお前……」
確かになって、言ってじゃあ結婚するかっと私の手を握ったその人は、きっとヤケだ。