「赤羽はコータローって下の名前で呼んでくれてるんだし、あんたもそうしてあげれば?」
「…え"っ」
というジュリの一言により、下の名前で呼ぶこととなった。…のだが、これがまた難しい。
赤羽隼人。下の名前で呼ぶということはつまり『はやと』と呼ばなければならないってことだ。俺の中では赤羽と呼ぶのが当たり前なので、かなり今更である。考えただけでこっぱずかしいってのに、ましてや口に出すなどと。
「あんたそういうところで案外乙女よね〜」
「きっ…もち悪いこと言うなよジュリ!スマートじゃねえぞ!」
「はあ、どっちが。二人がイチャイチャしてるときの方が甘ったるくて気持ち悪いと思うけど?」
「ハア?!ンなこといつしたよ?!」
「大体いつもしてるわよ」
「何の話だ?」
ばっと二人して勢いよく振り返った。背後から、かなり聞き慣れた声がしたからだ。案の定そこには話の当事者がいて、俺は冷や汗というものを体感した。だから背後に立つなっつってんのに!ジュリがわざとらしいくらいの調子で返した。
「あらあ赤羽…」
「フー、二人揃って内緒話か」
「そういうわけじゃ…ああそうだ、コータローがあんたに話があるって」
「そうそう俺が…はあっ?!」
まさかの俺に話を振ってきた。ついなかなかやらないノリツッコミをしちまったじゃねえか…。赤羽は話を促すようにこっちを真っ直ぐ見る。いや、サングラスを隔てているから本当に真っ直ぐかどうかは知らないが。
「何だ?」
「いやっ…別に何、もッ?!」
誤魔化そうとした瞬間ジュリが手の甲を容赦なく抓ってきた。薄い皮膚をギリギリと。お前は鬼か…!ぎっと睨むとジュリは俺なんか勝ち目ないくらいの睨みをぶちかましていて、すぐに顔を逸らした。いや知ってたけどよ、ジュリに勝てたことなんて今まで殆どないし。赤羽はというと大人しく俺の言葉を待っている。そんな真剣になられたら益々言いづらい。言わなきゃなんねえんだな、わかった言ってやる俺はスマートな男だからな!と決意して俺は息を吸った。
「…は、は…」
「?」
「はゃ…は、っ隼人ォ!」
よし言った!よく言った俺!冷静に考えてみれば名前呼ぶくらいで力んだり拳握ったりはしないのだが、俺はすっかり気が高ぶっていた。
「…あかば?」
隣にいるジュリが赤羽の様子を窺う。赤羽は無言で身体がやたらブルブルと震えていた。こっちは頭にクエスチョンマークを浮かべるしかない。突然顔を背け、独り言っぽいことを呟いた。
「君はいつも僕のことを気にくわないと言っていた…だから僕も君とは音楽性が合わないんだと思っていた、が…フー…やっと君は僕を認めてくれたんだね」
「あ?」
「一生を共にするパートナーとして」
赤羽が俺の手を握った。無駄にギターの腕も磨いている所為でコイツの指は硬い。いやそんなことより、俺は耳を疑った。耳掃除は一昨日あたりにしたはずだ。聞き間違いのはずがない。ジュリが「これはとんだ藪蛇だったかも」と呆れ気味に言うのが聞こえた。
「お、お前よ…何か盛大で傍迷惑な勘違いしてんじゃ…」
「コータロー、もう一度呼んでくれ」
「あん?」
目の前の赤羽はサングラスをカチャリと外した。カラコンと言えど赤い目を見ると多少なりとも驚いてしまう。というか目も髪も赤すぎて困る。酔う。意味が分からない。こっちの目がおかしくなる。
「呼んで」
肩を軽く掴まれた。あ、睫は黒いんだな、まあ当たり前か…じゃない。近い。なんか洗脳されそうだ。近い、近い、
「ちっ………けえよ赤羽この野郎ォ!」
「ッ?!」
しょうがない。ここで頭突きをぶちかましてしまったのもしょうがない。赤羽が悪い。
「…あんたそのすぐ手が出るクセはそろそろ直しなさいよ…」
「何故だ…俺はただもう一度呼んでくれと頼んだだけなのに…」
「もう二度と呼ぶか!ぺっぺっ」
俺は絶っ対『赤』に洗脳されたりしねえ!





オチは永遠の旅に出ました

20140130

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