ああ今日もだ。すっと伸びた白い項に汗が滲んでいる。この光景が俺の動きを鈍くさせるのだ。
「花形?用具片付けるぞ」
振り返って俺を見上げる姿も、身長差で必然的に上目遣いになっている。鎖骨を伝った汗を目で追ってしまい、慌てて顔を背けた。最近の俺は、全くもっておかしい。どうしてか藤真に見とれてしまうのだ。…溜まってるのだろうか。
「悪い、ちょっと水道行ってくる」
「ああわかった」
いたたまれなくなって、俺は一言断って外に出た。日中よりは幾らか爽やかな風に迎えられる。とっくに日は暮れてしまい、体育館周辺だけでなく校舎の方も人の気配は殆どない。古い電灯が不規則に点滅している。早く新しくすればいいのに、なんて心にもないことを適当に考えながら体育館脇の水道へ寄った。蛇口を捻って、冷たいとは言えない水道水で喉を潤す。その間も、絶えず先程の光景が頭から離れない。どうにか気を紛らわせようと、身体を屈めて頭に水を浴びせた。掛けたままの眼鏡に水滴が溜まっていく。
「花形、」パシャパシャと水音の合間に名前を呼ばれた気がして頭を上げた。そこには藤真が居た。今、あまり近くに寄ってほしくない人間だ。
「どうしたんだ?」
「…どうした、って」
「ん、いや…少し様子がおかしいと思ったんだけどな…気のせいだったか」
軽く首を傾げる藤真は相変わらず鋭い。気にかけてくれるのはありがたいが、生憎原因はお前だ、とは言えまい。いや、勝手に欲情した俺が原因か、結局。
「藤真、汗拭いとけ。風邪引くぞ」
何とも返答できず、苦し紛れに持っていたタオルを放る。頭からびしょ濡れの男が何を言ってるんだろうか。我ながらテンパっている。当の藤真も目を丸くして受け取ったが、少し笑って「サンキュ」と答えた。そして言われたとおりに額や首を拭いていく。ガサガサと豪快に拭く姿にいちいち仕草が男前だなあなんて思った。だが、直ぐにぴたりと動きが止まった。俺は濡れた眼鏡をシャツの裾で拭いていたので、様子を窺うにも表情がよく見えない。「藤真?」と声をかける。
「…当たり前だけど…花形のにおいがする」
「そりゃあ、俺も使ったからな…あ、悪い、臭かったか」
「そうじゃなくてさ…」
呟いてぎこちない動きでタオルに鼻を埋めるので、緊張に似た心地がした。私物のにおいを嗅がれるというのは何とも変な気分だ。藤真が珍しく言いよどんでいる。思ったことはきっぱり言うタイプのはずだったが。
「ああ、うん、何て言うか…花形のにおい、好きだな。安心する、っつうか…」
その後の言葉はもごもごとタオルに埋もれて聞こえなかった。だが後半を聞き取れなくてもそのセリフの破壊力は大だった。タオルで口許を隠す姿さえ愛おしい。





(うなじ見えてムラッ)
(ヤってないけど性的な話(笑):テーマ)

20131228

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